アネモネの花束【ars/J.M】 (ページ31)

今日:4 hit、昨日:8 hit、合計:182,488 hit

31 ページ31

『二宮さん、どうしてあんなことしたんでしょう……』

「さぁ。明日聞いてみれば？」

『……顔見たくない』

「分かるけど。仕事だから見たくなくても見なくちゃな？」

エレベーターの扉が開いて、部屋まで並んで歩く。

話し声が響くといけないから、小声で喋る。

『好きじゃない人にキスされるって、気持ち悪いんですね』

「そりゃそうだろ」

『男の人って、好きじゃなくてもキス出来るんですか？』

「人によるだろうけど。俺はしないね」

『ふーん』

「んだよ」

他にも何か言いたげな感じが伝わってきたけど

それよりも本当に疲れてるように見えたから

『いえ。おやすみなさい』

「おやすみ」

そう言い合って、Aを引き留めずにお互いの部屋に帰って行った。

とりあえず風呂に入って、精神を落ち着かせたい……。

ソファーに鞄を放り投げて、シャワーでモヤモヤした感情や苛つきを洗い流す。

適当に拭いた頭、部屋着に着替えて、缶ビールをそのまま飲んだ。

「うーめ」

ソファーに深く座って、背もたれに身体と頭を預ける。

身体がずっしりと重い。

目を閉じると、さっきのにのとAの姿が浮かんでくる。

伏し目がちにAの唇に触れるだけのキスをしたにの

それにびっくりして、目を丸くして固まってしまっていたA

「あ"ーーーー！」

叫んだ瞬間スマホが震えて、ラインが届いた。

確認するとAからで、すぐに開くと

《窓際で叫ばないでください。うるさいです。近所迷惑です。サイテー》

「は？(笑)」

ここ、部屋のど真ん中ですけど？

そう思ってビールとスマホを持ってベランダに出ると

風呂上りのAがビール片手に蹲み込んでいた。

『どんだけ大きい声出してんですか？』

「ごめん」

『そんなことしてると、そのうち紙入れられますよ』

一口ビールを飲んで、上目遣いで睨んできた。

お前のせいだろ！とすぐそこまで出たけど、言うのをやめた。

言ったところで、こいつの機嫌がもっと悪くなるだけだし

何よりこんな夜に言い合いはしたくない。

感情が爆発してしまうかもしれないから。

「風呂上りのビールうまいよな」

『最高ですね』

壁を挟んで俺もそこに蹲み込んで、ビールを飲んだ。

涼しくなってきたから、風呂上がりで少し熱い身体に、夜風が気持ちいい。