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30過ぎのおじさんの身体にこのラーメンはちょっときついけど
こいつの嬉しそうな顔が見られるなら、また付き合ってやっても構わないと思わせるほど
気持ちよく食べて行く。
『毎日食べたい！』
「毎日食べたらトレーニングのメニュー変えないと豚になるぞ」
『それは困りますね。だってそしたら松本さんにお姫様抱っこしてもらえなくなるもん』
「俺、またしないといけないの？」
『だって転けるかもしれないじゃないですか』
「してもらう前提に話をするんじゃなくて転けないように気を付けろよ(笑)」
『んっふふ』
もぐもしながら俺を見るな。
捕獲して、飼育箱に入れて、飼いたくなるわ。
あっという間に食べ終わって、タクシーで帰宅する。
とは言っても
『また隣に松本さんいるのかぁ。ラーメン以上にくどいな』
「お前、マジでふざけんなよ？」
タクシーの後ろの席で、俺の隣に座り、まぁまぁと腕を撫でて、宥めてくる。
『ていうか、毎日一緒に会社行くんですか？』
「え？あぁ……合わせなくても合うだろうな」
『怪しまれそうですね、付き合ってるんじゃないかって』
「まぁ、うん」
『……否定しときますね。お互いのために。松本さんに迷惑かけたくないんで』
窓の外を見ながら一瞬の間があって、そう言ったA。
その間に、何か意味あるのか聞く勇気はなかったけど
「別に良いよ。かけられても。無視しときゃいいだろ。そんな話題でしか盛り上がれない奴らなんて」
って、思ってることを口にした。
それにAとなら、全然迷惑じゃねぇし。
『松本さんって、時々ものすごく冷たいですよね』
「そうか？」
『近寄りがたいです』
「そういう割にはお前は近寄ってくるな？」
『何ででしょ。刷り込み？』
「刷り込み？」
『ほら、鳥が生まれたばっかりでもちゃんと親鳥の後をついて行くじゃないですか。あれに近いのかな。初めての仕事で初めての上司ですし。人間で言えば……初体験の相手みたいな(笑)』
「途中まではよかったのに、最後の例えが良くないな(笑)」
タクシーがマンションに着いて、2人でエレベーターに乗って、部屋に帰る。
『良くも悪くも、甘えて、懐いているってことですよ、松本さんに。でも、それを手放さなければならない時が来ましたから。頑張ります』
「無理すんなよ？」
『ふふ、はい。じゃあごちそうさまでした。おやすみなさい』
「ん、おやすみ」
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作者名：鈴
| 作成日時：2020年5月31日 13時
