アネモネの花束【ars/J.M】 (ページ16)

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一応Aが部屋に入ったのを見届けて、エレベーターで下まで行く。

もし、この間みたいに元彼がいたら……

俺はあいつをどうしてただろう。

……心配だから、俺の家に連れて帰ったかもしれないな。

そんな事を思いながら、エントランスを抜けようとしたら

キャップを目深に被った男がドアの向こう側のインターホンを、何度か押していて

俺が自動ドア開けたと同時にサッと入ってきた。

怪しいなとは思ったけど、たまたまインターホン越しの相手が開けたのかもしれないと

俺はその男をそれ以上詮索せずに、タクシーに乗り込んで、帰宅した。

そして次の日の朝、朝礼ギリギリの時間に、オフィスの電話がなった。

上司の大野智課長が出る。

智「おぉ、おはよう。どうしたの？寝坊？ん、えぇ？！うん、うん、そう。わかった。お大事にね。じゃあ、とにかく今は休んで。また先のことが分かったら連絡頂戴。ん、はい」

受話器を置いて、小さなため息をつきながら、俺を見てから言った。

智「松本く～ん。Aさんが、入院したみたいで。しばらくおやすみするってさ。1人で大丈夫だよね？」

「え？！どうしてですか？」

智「なんかね、階段でよろけて、怪我して入院したんだって。膝も怪我してたのに散々だねぇ。心配だし、可哀想にぃ。はい、みんなぁ、朝礼やるよぉ～」

「……分かりました」

本当に心配してんのかよってくらいのんびりとした声で言う、大野課長。

あいつ、今の状態でそんなに階段使うかな。

昨日、一階から5階まで一緒に上がったけど、かなりゆっくりだったし

出来る限り階段なんて使わない方がいいに決まってるのに。

なんて、あれこれ俺がここで考えても仕方ない。

今日は外勤で直帰する予定だったから、その後、見舞いに行ってみるか。

外勤前に馴染みの定食屋へ1人で昼飯に行くとAがいないから

お母さんとお父さんが心配そうに声をかけてきた。

＊「あれ！怪我？大丈夫？」

「いや、俺もわかんなくて。とりあえず今日の夜に様子見てこようかなって」

＊「Aちゃんによろしくね？また元気になったら食べにきてよ、2人で」

「はーい」

いつものを頼んで、食べる。

だけどいつも目の前で、うまそうに大盛りの白米と生姜焼きを食べるAがいないのは、なんだか物足りない。

1人で食べる昼飯は

……すごく味気ない。