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『……あり得なくない……！え、どうしたらいいですか？この膝じゃ、蹴ることも、逃げることもままならないじゃないですか！松本さん、部屋の前までついて来て！』
「ヤダ。だってあいつ面倒臭そうだもん。また巻き込まれるのヤダ」
『今日のタクシー代、自分で払うからついてきて！』
「はぁ？ヤダよ」
『そもそも松本さんがそんな風に言わなかったら良かったんじゃないですか！ひどい！いじめ！パワハラ！！』
「パワハラではない！(笑)」
『マジでついてきてください。お願いします！』
俺の腕をめっちゃ引っ張ってきて、身体を揺らしてくる。
しかも子どもが駄々を捏ねてる並みにうるさい。
余計なことを言うんじゃなかった。
「わーかったから引っ張るな！」
『ついてきますね？！』
「……ついてくから」
『いたらどうしたらいいですか？』
「……まずは、いないことを祈れ」
『りょーかい！！』
居ないこと前提で、タクシーをAのマンションの前に待たせておいて、部屋に向かう。
『エレベーターで行ったらバレますよね？』
「だけどお前の部屋、何階？」
『5階！』
「その膝で階段登るのやめた方が良くね？」
『じゃあ松本さんが1人で見て来てくださいよ！』
「はぁ？やだよ！」
『事の発端は松本さんの言動なのに？！』
昨日転けた場所で立ち止まって、俺を見上げて睨む。
「……睨むなよ」
『睨むだろ。まぁ、エレベーターで逃げられないより、階段からこっそり見るほうが安全なんで、仕方ないから私も頑張って上ります』
「膝死んでも知らねぇからな？」
『膝はとっくに死んでるんで大丈夫です』
「ちょっと何言ってるか分かんないです」
結局膝を庇いながら、階段をなんとか上がっていく。
しかも、靴音でバレるかもしれないってなって、2人して裸足。
夏でよかった。
冬だったらコンクリが冷たすぎて俺の足がどうにかなる。
5階目前、いるかもしれないから、小声で話す。
「お前が覗けよ？」
『分かってますよ』
部屋に続く廊下に這いつくばるようにして覗くA。
なんかの刑事ドラマみたいだ。
「いる？」
『……』
「おい！」
『……いない！』
「マジかよ……！ここまで上がってきた俺の体力が無駄！」
『お騒がせしました』
「んじゃ、おやすみな？」
『おやすみなさーい』
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作者名：鈴
| 作成日時：2020年5月31日 13時
