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『ごめんなさい』
何も謝る事じゃないのに……。
それから、予約の時点で料理も頼んでおいたから、次々に運ばれてくるけど
Aちゃんはほとんど口にしない。
母「好き嫌いが多いからぁ。もったいないでしょ？そんなに残して」
『ごめんなさい。ちょっと量が多くて……』
「俺が食べるよ。無理しないで？」
『ごめんなさい、かずさんごめんなさい』
来年には30なる大人が、子どもみたいに話し方は辿々しく、そして何度も謝る。
どれだけこの人は自分の娘を虐げて来たのか。
そしてまだ根強くトラウマが残っているAちゃんが、可哀想でならなかった。
母親は、Aちゃんの幼い時のことを話してるけど
それに対して懐かしんだり褒めたりすることなく
それを静かに聞いて、何を言われてもやっぱり謝るAちゃんを見ていられなくて
この後、用事が出来たと嘘をついて、少し強引にその場を後にした。
最後だけ
母「ふつつかな娘ですが、お願いしますね。何か困ったことがあったら連絡しなさい。おめでとう」
と母親らしいことを口にしていたけど、それに対してもAちゃんは
『ありがとう。ごめんなさい』
と言っていた。
「ごめんね。早く帰ろう」
車に乗り込むとすぐに助手席のシートを倒して、行きと同様、目を瞑ってる。
相当疲れたんだろう。
顔色が悪すぎる。
『かずさん……ごめんなさい。うまく出来なかった』
「謝らないでいいんだよ。大丈夫。上手に出来てた。早く帰って寝よう？」
『ね、一緒に寝て？お願い。ずっと一緒にいて？』
「いるよ。大丈夫」
家に着くなり、手を洗ってうがいをすると
身体を締め付けていたストッキングやらブラやらを洗濯機に放り込み
寝室でブラトップと、短パンに着替えて、布団に潜り込んだ。
俺もAちゃんを追いかけて、布団に入って、抱きしめた。
「頑張ったね。偉かったね」
『かずさん……』
「ん？」
『私、好き嫌い、多くないよ』
「知ってるよ。何でも美味しそうに食べるもんね」
『前の人みたいに、料理も洗濯も掃除も身嗜みも完璧じゃないけど、最低限は出来るよ』
「俺はAちゃんの料理の方が好きだし、家事だって苦手なら、俺がやれば良いし、一緒にやるとか、出来る方がやれば良いんだよ」
『かずさんしか、好きじゃないの』
「ふふ、うん。よーく知ってるよ」
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作者名：鈴
| 作成日時：2020年5月31日 9時
