5 ページ5
クシャクシャと隣に座っていたAの頭を撫でてやると
やめて、と俺から身体を離された。
だからもう一度肩を抱き寄せ、その勢いで唇を喰んだ。
「観てよ、寂しいじゃん。頑張ってるとこ観て欲しいな」
『気が向いたらね』
「つれねーな(笑)」
この頃から、それとなくAからはサインが出ていたんだ。
何故そんな風にAが変わり始めてしまったのかわからないけど。
鈍感な俺は特に気にならず、いつも通りAとの時間を満喫していた。
俺がこっちに来れば、Aが俺に気遣って我儘を言えなくて会えないことに関しては問題ないと思っていたし
言い合いもするけど、やっぱ好きだから。
Aも俺を好きでいてくれるという強い自惚れもあったし。
そして、また少しずつ少しずつお互いに歯車が狂い始めた秋。
仕事もAと付き合い始めた頃より忙しくなって
ニュースの生放送の為に、複数の新聞を読み込み
レギュラーの撮影にドラマの撮影……
連絡は毎日数回は必ず取っていたし、時々電話もしていたけど
Aと会う時間は作れずに、2か月が過ぎようとしていた。
『翔さん、私、就活諦めた。今のバイトで仕事しながらやりたいこと見つけることにする』
「フリーターってこと？」
『うん……』
「そう」
3日ぶりの電話なのに、就活に疲れ切ったAの声が耳に届く。
A的に一生懸命やって、よく考えた結果なんだろう。
努力してたのはもちろん俺もそばで見ていたからよく知っている。
「Aがそれで良いならいいんじゃない？」
『櫻井翔の彼女がフリーターなんてダメだよね……ごめんね、相応しくないよね。なんかこう……もっとちゃんとお仕事してる人がいいよね』
「……そんなことないよ」
決してフリーターを軽蔑してるわけじゃない。
してるわけじゃないけど……
やっぱちゃんと彼女には正社員で働いて欲しいとは思ってたし
Aは就職浪人にならないと勝手に思い込んでいたから
その決断がちょっと俺の中で引っ掛かったのは確かだ。
ものすごく失礼な思考なのは重々理解してはいるんだけどね。
それからまたしばらくすると、ちょっとしたことで喧嘩になることが増えていった。
この前は
「なぁ、この前バイトの帰りに男と歩いてただろ。誰だよ、あれ」
『え？いつ？』
「1週間くらい前。信号待ちしてんの、たまたまロケ車から見えた。親そうに話しててむかつくんだけど」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 261人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：鈴
| 作成日時：2020年1月21日 13時
