白椿【ars/S.S】 (ページ27)

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外国に行くだけだったら、別れなくても良かったのかもしれない。

翔さんにちゃんと言って、遠距離も考えた。

けど記事が出ると知ったその日から、もう心も身体も嫌がらせへの拒否反応が出て無理だった。

翔さんに心配される前に

別れを余儀なくされる前に

私の心が死ぬ前に

自ら翔さんと離れることを早急に選んだ。

少しでも翔さんに迷惑がかからないために。

あの日、朝ごはんを食べようと言っていたのに、その前に俺の部屋を出て行ってしまったA。

別れを一方的に伝えられ、なんとなく俺が納得したあの日から、もう半月が経とうとしている。

この約半月、俺はどう過ごしていたかよく分からない。

部屋に散らばるAとの思い出

街中に点在するAと行った店

脳内にこびり付く俺の大好きで可愛いAの笑顔

耳に残るAの優しい声。

どれも霞むことなく、俺の中に存在し続けているせいで

別れたという事実だけは頭で理解しても、状況にまだついていけていない。

細かなものまできちんと持って行ったから、ほぼこの部屋にはAのものは残っていないけど

唯一見つけたのは、俺が誕生日にあげた花のピアスと

料理を作る時に髪が邪魔だといって結っていた、何でもない黒いゴムだけだった。

ゴムはシンプルに忘れただけで、ピアスは捨ててくれということだと思う。

俺があげたものは持っていかないという意思表示だろう。

俺がこれを捨てられるはずないのに……。

マネ「おはようございます。今日は収録の前に事務所に寄ります」

「ん」

上の空でマネージャーに相槌を打つ。

目で詳しい情報を得る前に、流れていく都内の景色。

いつもと同じ、たくさんの人、たくさんの車、スーツ姿の人、学生、親子連れ……

何の変哲もない街中に、気付けばため息が溢れる。

マネ「櫻井さん。Aさんと別れたんですよね？」

「そーだよー。振られたんだよー」

マネ「連絡は取ってないですね？」

「電話したけど、もう番号変えられてて繋がらなかった。マンションにも行ったけど、もう誰もいなかった。Aの友達に聞いたけど、突っぱねられた」

試しにともちゃんに電話したら

とも《言うわけないでしょ。先輩よりAの方が大事なんで。私に何聞いても無駄ですからね。何も言わない約束したんで》

ってびっくりするほど、冷たくあしらわれた。