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「何で秘密なんだよ(笑)教えろよ〜」
『ヤダ』
「何で！」
『ヒントだけ言う。すごーく遠いところ』
「すごーくって……やりたいこと、東京じゃ出来ないこと？」
『そう。だからもうこの部屋を出たら、翔さんと会うことは無いと思う。一生』
「は、一生って、それマジで言ってる？」
『マジだよ。翔さんには嘘付かないもん。遠い遠い遠いところに行くの。私のことなんか誰も知らない。私が翔さんと同じ大学で、同じゼミで、恋人同士になって、そして別れたことも何も誰も知らない場所。私が何者でも関係のないところ』
恋人には戻れなくても……
電話すれば、会えば、普通に話せる関係くらいにはなれると勝手に思っていた。
もちろん会おうと思えば、会える距離で。
けど、どうやらAの言うことから想像すると、その関係にさえ、もう戻れないらしい。
「どこっ……」
『言わないよ。絶対に。私の両親とか、ともちゃんに聞いてもダメだからね。口止めしてある』
食い気味にそう言い放たれる。
嘘だろ……。
「どうして？どうしてそこまでする？」
『そこまでしないといけないからだよ。もう翔さんの近くにはいられない。来週にはアパートを引き払って、その場所に行く』
「は？ちょっと待てよ。そんな急にっ……！」
『お願い。分かって。だから翔さんといられる時間はもうないの。準備が忙しいし、手続きもまだ残ってる』
「いや、だからって何で相談しなかったんだよ」
『私の人生は……私が決める』
「そうだよ。もちろんそうだけど、彼氏の俺に一言も無しに……」
『翔さんには、関係ない』
「関係なくないだろ？来週ならギリギリまで一緒にここに……！」
『それは出来ない。とにかく別れるし、遠くに行く。だから翔さん。ありがとうございました。翔さんとこういう関係になれてよかった。幸せだった。嵐の櫻井翔が元彼なんて、最高だよね。それだけで長生き出来そう』
そう言うと、俺の腕をすり抜けて服を着出す。
俺に背を向けて肌が見えなくなると同時に、Aの心も完全に見えなくなった気がした。
随分とゆっくりと話してたのか、少し空が明るい。
カーテンの隙間から、A越しに白い月が見えた。
手を伸ばせば届くのに、まだ目の前にいるのに、Aの存在が遠い。
「は、何言ってんの？」
絞り出したような声の俺の問には答えずに
全ての服を着たAが俺に跨がってきた。
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作者名：鈴
| 作成日時：2020年1月21日 13時
