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すーっと深呼吸をしてからゆっくり、でも確実に、真剣に、はっきりと言った。
『別れて欲しいです』
「……は？」
一瞬頭を殴られたかと思うくらいの衝撃が俺に走る。
何も言わない俺に、続けてAが言った。
『だから、別れたいの。翔さんと』
「何で……？」
『何で？えっとぉ……疲れた……から』
「俺といるのが？」
『……ん』
結論だけ言うと、膝に置いていた手はまた箸を持って、残っていたものを口に運んでいく。
淡々と、静かに。
「何か……誰かに嫌がらせさせられたとか？」
『……違う』
え、違うのか？！
俺の中で別れたい理由が、勝手にそれと思い込んでいたから、違うとなれば全く皆目見当がつかない。
「じゃあ何で？！喧嘩することもあるけど、最近は仲良かっただろ？俺のこと嫌いになった？」
『なってないよ。でも嫌いになる前に別れた方が思い出がキラキラするかもね』
「ちょっとなに言ってるかわかんねぇわ。は？なんなんだよ、急に。ちゃんと俺が納得する理由教えてくれないと、受け入れらんねぇ」
俺の焦りと怒りが篭った言い方なんて気にせずに
目の前のものを食べ終えたAが、今度は食器を片付け始めた。
『だから、疲れたの』
「だから！何が疲れたんだって聞いてんだよ」
『んー……家事』
本当の理由が家事なのかすら分からないほど、絞り出した感じに聞こえた。
「確かにかなりやってもらってたのは悪い。認める。けど、疲れたならこれからは何にもやらなくて良い。その代わりここにいろ。家事が疲れたって理由なら別れたくない。別れてやらない」
『あの……うん。何もやらないとかじゃないから。ここ出てく』
子どものように駄々を捏ねる俺に呆れたのか、もう何も言いたくなさそうに、そう言い放ってきた。
「は？何言ってんだよ。ダメだ。納得出来ないし、出ていくなんて許さない。愛してるから離してやらない」
『私は愛してるから別れたい』
一切俺の方を見ずに、目の前のことを片付けながら
訳のわからないことを言うAが冷静過ぎて妙に怖かった。
ただ漠然としたことしか言わないAに、全く納得がいかない俺。
そして、Aの心が急激に離れていくのが、手に取るように伝わってきて、胸が苦しい。
Aからしたら、こんなの俺のわがままにしか聞こえないんだろうな……。
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作者名：鈴
| 作成日時：2020年1月21日 13時
