白椿【ars/S.S】 (ページ14)

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びっくりして、冴えた頭で、翔さんの顔を見た。

「毎日こうしてAを抱きしめて眠りたい。毎日会いたいんだ。無理にとは言わないし、すぐにとも言わない。部屋の更新期間とかもあると思うから。どうかな」

『き、急に言われても……』

「ダメ？」

『ダメではないけど……』

「この部屋で暮らし始めるのは、Aのタイミングで良いから。待ってる」

『ん……分かった。ありがとう』

「こっちこそわがまま聞いてくれてありがとう。もう寝よう。な、疲れたろ？」

『……おやすみなさい』

「ん、おやすみ」

嬉しいはずなのに翔さんの逞しい腕の中で、ゆっくりと心に靄がかかっていく。

一緒に暮らしたら、その分お互いのリスクが上がるんじゃないのかな……。

なんて手放しで、純粋に喜ばなかった、今のこの気持ちが

私と翔さんの今後の未来の結果だと、この時ははっきりと自覚はしていなかった。

卒業して数ヶ月。

Aは相変わらずバイト三昧で

最近は他に夢中になってることがあって、熱心にその勉強してるらしい。

果たしてそれが働くことに繋がるかは別として。

卒業式の夜

Aにこの部屋で一緒に暮らすことを提案したからか

同棲のお試し期間みたいな感じで

時間が合えば、俺の家に来てくれることが増えたように思う。

帰れば大好きな彼女がいて、あったかいご飯もあって、風呂が沸いてて……

ただいまと言えば、お帰りと聞こえる空間が、幸せ極まりない。

けど一緒にいればいるほど、喧嘩が増えていってしまって。

本当に些細な言い合いから、険悪なムードになる喧嘩まで様々。

その原因はきっと、半同棲のおかげで今まで知らなかった相手の癖やルーティン

物事を進める順番、掃除の仕方、洗濯物の畳み方……

他人と共存していくことが、こんなにも面倒で、難しいなんて知らなかったからだ。

『翔さん、お話があります』

「なに」

半同棲になって半年。

向かい合って飯を食べてたら、真剣にそう言ってきたA。

特に言い合いをしていたわけでもないし、何かしてしまったとも思えなかったから

たいした話じゃないだろうと思って、視線すら上げなかった俺にAが言う。

『こっち見て？ちゃんと顔あげて？』

「ん。はい。なんでしょうか。Aちゃん？」

Aはまだ食べ終わってないのに、箸を置いて、膝に手を置いたから

俺もそれにならって箸を置いた。