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「彼奴もええ年やし、そろそろ本気で恋を覚えてもらわな思てな。」
「ふーん…。で?」
「それだけや。」
"欺く"なんて格好つけてはみたが、彼に対しての誤魔化しなどこれが精一杯だ。
但、この理由は彼を激怒させる可能性が大いにあるのだが。
「……まーしぃーはさ、彼奴は誰か選ぶと思う?」
「何?急に。」
不意に顔に影を落とした浦田さんは、ちらりと俺を見やる。
「別に。いつかは誰かと幸せになる彼奴を見送らなきゃなのかなぁ〜…てふと考えただけ。」
「浦田さんにしては随分と弱気やな。そんなんやったら俺が取ってまうよ?」
いつもの調子で彼に告げれば、「それもありなのかもな。」と予想の斜め上過ぎる答えが返ってきた。
いつもであれば、ぶっ叩かれるか罵られるかのどちらかだというのに。
「浦田さん。ほんまにどうしたん?」
「…俺さ、上洛するわ。」
「は??!上洛?!」
「声でけぇよ馬鹿。」
とんでもない事を、あくまで淡々と暴露した浦田さんは、自身の耳で揺れるピアスにそっと触れ、大事そうに外した。
「まーしぃーさ、疫病がまた流行り出してんの知ってる?」
「…まぁ、客が言ってくるからそれなりには。坂田はあれやけど、センラも知ってんちゃう?」
「今、
「は?それ誰情報なん?」
「当主様。」
まさかの人物からの暴露話ということを聞いた俺は、言葉を失った。
恐らく、最年長で信頼できる浦田さんだからこそ嘉多祇さんは直々に話をしたのだろう。
だからと言って、それと上洛に何の関係があるというのか。
「俺、京都の店から声かかってんだよ。…今よりも数倍いい条件でさ。」
その一言で合点がいった。
彼は、自身を犠牲にして華月に尽くそうとしているのだ。
上洛先で得た収入は、ほぼ華月に入れるつもりなのだろう。
「浦田さんがそこまで身を挺してやることかね…。黙って行くつもりやろ?」
「まぁ、そりゃね。」
『未練が残りますから。』なんて自嘲気味に笑った彼は、すくっと立ち上がり、凛と背筋を伸ばす。
嗚呼、やっぱり…
「…浦田さんには一生叶う気せんわ。」
「あ?何か言った?」
「いんや。」
誤魔化した俺を追求することはせず、彼はばっさりと告げる。
「引き留めて欲しかったわけじゃなかったからさ。やっぱまーしぃーに話して正解だったわ。」
そう言って、からりと笑うのだった。
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ちょこ2(パソコン変わりました≪元ID 5ad0b4ef6a≫)) - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみにまってます!(´;ω;`) (10月3日 23時) (レス) @page43 id: c7ac99c812 (このIDを非表示/違反報告)
はおと(プロフ) - おっもしろいな〜!!!!! (2021年9月28日 15時) (レス) @page36 id: 36f12069ba (このIDを非表示/違反報告)
Haoto(プロフ) - すごく続きが気になる終わりかただ~…。面白いので、更新、できたらで良いので書いてもらえたらすごく嬉しいです…!! (2021年8月30日 3時) (レス) id: e9d14425e3 (このIDを非表示/違反報告)
ナナ(プロフ) - 応援してます!頑張ってください! (2021年8月14日 14時) (レス) id: 5ba492e76b (このIDを非表示/違反報告)
しろ時雨(プロフ) - 主人公がかっこいい!憧れます! (2021年8月10日 8時) (レス) id: b4c51071c3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雫月 彗 | 作成日時:2019年12月29日 19時