月華繚乱【浦島坂田船】

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「A、これ頂戴。」



簪を引き抜かれ、はらりと髪が落ちる。
人の物を取るのだから、もう少し遠慮する素振り位は見せてほしいものだ。
堂々と窃盗をしないでほしい。



「志麻くんにもあげてたし、ええやろ…？」



何故この人たちは、こういうところで自分の顔面の良さをここぞとばかりに押し出してくるのだろうか。
切実にやめてほしい。
いやもうほんと切実に。



「どうぞ。」



彼の手から簪を奪い取り、そっと刺す。
やはり似合ってしまうのだから敵わない。
呆然と、それこそ風景のように彼を眺めていると、聞き慣れた声が飛び込んでくる。



「Aー？」

「うげ緑菊…。」

「うげとはなんだ、うげとは。センラに絶対安静って言われた筈だぞ。寝とけ。」



そう言われ、身体が宙に浮く。
こんな体勢のまま言うのもあれなのだが…。



「行ってらっしゃいませ赤桜。」

「その格好で言われてもな。」

「すみません。私もそう思います。」



申し訳なさに顔を逸らそうとすると、頬を挟まれて、顔をホールドされる。
緑菊からの視線が痛い。



「うらさん。僕は負けへんよ？」

「ほざけ阿呆が。」



謎の宣戦布告に緑菊がキレるのも頷けるが、何故か通じ合っていそうな雰囲気なのだから、この2人は恐ろしい。
赤桜ににこりと微笑まれ、『いってらっしゃい！』と見送られる。
いや、何故 私が見送られているのだ。



「志麻くんのとこ、やろ？」

「分かってんじゃん。」

「アイコンタクトではなく、私にも分かりやすく教えていただけると助かります。」



これ以上は我慢ならない。

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