月華繚乱【浦島坂田船】

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がらりと愛おしい人が入ってくる。

嫌だ見ないで。
汚い僕を見ないで。

僕は今、とても醜い。
彼女以外から遺された、汚い汚い痕が身体を蝕む。

無意識に身体を掻いてしまう。



「…！何してるんですか赤桜！！！」



初っ端、恐る恐る入ってきたとは思えない程に、勢いよく近付いてくる彼女の服が濡れるのも構わず、縋り付いてしまう。

嗚呼。安心する。
大好きな彼女の匂い。
愛おしい彼女自身。



「……僕、汚いねん。A、これ(・・)取って。きもちわるいの取って…。」



付けられたばかりでまだ紅いその華は、僕が掻き毟りすぎて少々抉れてしまっている。
彼女が驚きを隠せなかったのはその所為だろう。



「洗っても洗っても消えないんよ。…汚い。こんなん要らん。A以外の痕なんか要らんねん。」



そう言って、また掻き毟ろうとする僕の手をそっと止める彼女。

優しくて、強くて、綺麗。

僕だけを愛して欲しい。
でもどうすればいいのか分からない。
皆の事は好き。
でもAはもっと特別な好き。

今に似つかわしくない感情が溢れて止まらない。
この好きを彼女にどうしたら伝わるのだろう。
皆、彼女が好き。
でも僕が1番好き。
どうしたらそれを伝えられるだろう。



「Aの痕、頂戴？」









分からない。
分からないから、僕は自分の想いに素直でいるよ。
だから応えてね、A。

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