月華繚乱【浦島坂田船】

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「私はここ、華月の次期当主です。彼等が嫌と声を上げるならば、何が何でも嫁がせません。」



言ってしまった。
それも大地主相手に。



「これが私のけじめ(・・・)です。」



正直、内心殺されるのではないかと思った。
父子共に顔は真っ赤に染まり、罵声の言葉を浴びせ続けられる。
おまけにおちょこに入った酒は掛けられるわ、食べ物はひっくり返されるわで、一体誰がその後片付けをやると思ってるんだと言いたくなった。
けれど、今はそんなことどうでもいい。

私の背にいる彼等の顔から着物、身体に至るまで、決して汚してはならない。
花魁という仕事をしてる以上、それ以上にみじめな思いをさせてはならない。

私だけが汚れ役でいいのなら、それでいい。



「お客さん、ちょいとやり過ぎですね。」

「同感です。女にすることとは思えませんが？」



頭を下げ続ける私の横から声がかかる。
来るのが遅い…。



「か、嘉多祇さん…！きょ、今日は戻られないんじゃ…」

「あらまぁ。私(わたくし)のことは見えていないらしわ、嘉多祇さん。この調子でぶん殴ってきてもいいかしらね？」



ぎろりと母の紅を引いたどぎつい目で睨まれれば、大地主であろうと硬直するみたいだ。
美人が怒ると怖いとはよくいう。
私でさえ鳥肌が立ったのだから。



「み、雅さんも勿論見えていますとも…。」

「雅、おちょくり(それ)は後でにしてくれ…。さて、お客さん。まずは娘と小百合が無礼を働いてしまったことについてだが、そちらについては謝罪させてくれ。大変申し訳ない。今後２度とないように、よく注意をしておく。だが、元はと言えば、俺が彼等の想いを汲み取ってやれなかったことが発端だ。だからどうか彼等を責めないで欲しい。」



謝罪、弁解。
その全てにおいて経営者たる者という貫禄が滲み出ている。
さっきは大口叩いてああ言ったが、私にはこれが出来るとは到底思えなかった。

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