月華繚乱【浦島坂田船】

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Aのことは諦めなければいけない。
ぐるぐると不快な言葉がループする。
手を伸ばせば届く距離に、愛おしい相手がいるというのに。


僕の人生は、今まで全て諦めてきた。
身分も、金も、女の相手も。
だからこそ彼女だけは諦めたくなかった。
何が何でも手に入れたかった。
彼女を手に入れたいからこそ、醜い嫉妬も、汚い欲望も全て隠し通してきたというのに。

こんなに呆気なく。
こんなに脆く。
全てが無駄になっていくのか。





いつも通りの諦め(・・・・・・・・)を胸に、ゆっくりと愛おしい人に背を向けて歩き出す。
一目でも見てしまえば、この心の声を叫んでしまいそうだから。



「…確かに謝って済む問題ではありません。」



彼女の凛と澄んだ声が響き渡る。



嗚呼。
A、助けて。

たすけて。



「けれど、彼等には幸せな生活を送って欲しいのです。彼等だって同じ人間です。好きな人だって出来ますし、結婚相手だって自分で決めたい筈です。華月(ここ)は彼等の意思を最大限尊重する店です。そして、私は彼等が本当に幸せだと思える場所が出来るまで、彼等を守り抜かなければなりません。」



じわりと視界が滲んでいく。
いつも僕を守ってくれるその手で、どうか僕を捕まえて。



「それがご理解いただけないのであれば、今すぐにお引き取り下さい。」



彼女に腕を引かれ、大切な仲間の元へ連れ戻される。
倒れ込んだ僕を庇うように立っている彼女が視界の端に映った。

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