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ページ25

「A……。みーつけた。」




そうやって小百合は、あの日みたいに綺麗に笑うのだ。
あの日、誰にも見つけてもらえなくて泣いていた私を、彼だけはこうして見つけてくれたのだ。





「…どうしてここだと?」

「分かっていても言わせるとは狡い人ですね。あの日、この場所で指切りしたではないですか。」

「…答えになっていません。」

「これ以上の答えは要らない筈ですよ?」



私があのタイミングであの場を1度去れば、花魁の彼等は全員、小百合のお冷を取りに行くと考えるのが妥当だろう。
そうなれば当たり前に台所を使う。
だが、その台所に人がいないとなれば、途端に見当がつかなくなる。
前にも言ったが、華月(うち)はそれほどに敷地が広い。
けれど、この通路が台所に繋がっていることを知っている彼だけは、ここへ来れてしまうのだ。

あの日、2人だけの秘密の場所と称して指切りをした小百合()であれば。


それに何より、彼は勘がいい。
大地主の娘(彼女)が席を立った時点で何かしら察していたのだろう。

彼の言葉にいやに納得してしまう。



「Aが大好きなんです…。あんな…あんな人に僕の人生をあげたくはないです…。」



そう言って縋り付いてくる彼は、私より一回りも大きいはずなのに、何だかとても小さく見えてしまった。



「彼女には何と言って此処へ?」

「……僕の大好きな人を傷つけんとって、と。」



彼にしては随分と荒い接客をしてくれたものだ。
大きな溜息を吐き出せば、彼の綺麗な黄眼は途端に潤み出してしまう。
これはそういう溜息ではないんだけどな。



「…けじめですよ。」

「え…?」



唐突に発せられた一言に困惑した彼は、ぱちくりと大きな瞳を1度瞬かせる。
まあ、これじゃあ分からないのも当然か。

今回に関しては、私も巻き込まれた立場ではあるが、だからと言って、彼等の想いを無下には出来ない。
それぞれ苦しい生活をしていた分、華月(ここ)で人並み以上の幸せを手にして、嫁いで行って欲しいのだ。
勿論それは『私ではない人と』というのが大前提なのだが、今こんな風に彼等の想いを知りながら、私が見過ごしてしまったら、一体この先誰が彼等を守るのか。
否、誰も守れないのだ。
『買われた』というレッテルが貼られた時点で、自分の身体は勿論、意志でさえも他人のものになる。
吉原(ここ)はそういう所だ。

・→←(・)



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ちょこ2(パソコン変わりました≪元ID 5ad0b4ef6a≫)) - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみにまってます!(´;ω;`) (10月3日 23時) (レス) @page43 id: c7ac99c812 (このIDを非表示/違反報告)
はおと(プロフ) - おっもしろいな〜!!!!! (2021年9月28日 15時) (レス) @page36 id: 36f12069ba (このIDを非表示/違反報告)
Haoto(プロフ) - すごく続きが気になる終わりかただ~…。面白いので、更新、できたらで良いので書いてもらえたらすごく嬉しいです…!! (2021年8月30日 3時) (レス) id: e9d14425e3 (このIDを非表示/違反報告)
ナナ(プロフ) - 応援してます!頑張ってください! (2021年8月14日 14時) (レス) id: 5ba492e76b (このIDを非表示/違反報告)
しろ時雨(プロフ) - 主人公がかっこいい!憧れます! (2021年8月10日 8時) (レス) id: b4c51071c3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:雫月 彗 | 作成日時:2019年12月29日 19時

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