月華繚乱【浦島坂田船】

休日 ページ11

「おいでなされ。おいでなされ。ささ、見て聞いて抱いてみて？ いい子揃ってますわよ〜。」



他店の誘い文句が飛んで来る。
朝からお盛んな事だ。
やる気の無い欠伸が出ていく。

今日うちは店休日。
本来、遊郭に休みなどない。
けれど、うちは花魁のケアも大切だという事で、店休日というものを設けている。



「はよ、A。」

「お早う御座います、紫薔薇。今日はお早い起床ですね。」

「昨日の女には逃げられたからな。久々にぐっすり眠れたんや。」



『けど、まだねみぃ…。』と欠伸をして、洗濯物に手を伸ばす紫薔薇。



「まだ寝ていても構いませんよ？」

「いつもやらせてるからな。今日位は手伝わせろ。」



言葉は乱雑ではあるが、手付きはとてつもなく丁寧。
彼の経験がこんな所で見られるのは何だか嫌だった。



「お前、何か変な事 思っとるやろ。」

「変な事、とは？」

「まぁ……こんなこと？」



条件反射の質問の答えは、至極 彼らしいものだった。
するりと安物の着物超しに撫ぞられる太腿。
ひぅ、と引きつった声が洩れる。
その声に嬉しそうな表情を向ける彼。



「やっぱ…。お前に俺の人生あげたいわ。」

「だめ…。紫、薔薇………耳、やめ、」

「なんやて？ ちゃんと喋れや。」



楽しそうな彼に心底腹が立つ。
脚をなぞる手は止めず、耳許で喋る事を続ける。
そんな彼は悪魔みたいな事を囁くのだった。









「この帯、外してぇや。」

・→←秘め事

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す