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まだ灯りのついているコーヒーショップに戻りホットコーヒーを2つ買う。そのままFCのナビシートに入り彼に1つ手渡すとありがとう、と降ってくる。ゆったりと発進するのを感じながら口を開いた。
『どうして、わたしがここにいることが分かったの?』
「埼玉で遠征の相手だった秋山渉が教えてくれたんだ。」
秋山渉。いたなぁそんな人。FCを買ったばかりの時、埼玉に出かけて道端で動かなくなっちゃったんだっけ。その時助けてくれたのが秋山渉だ。ハチロク乗りだったからいつかは当たるだろうって思ってたはずなのになんともまあ簡単に情報が漏れている。
『プロジェクト頑張ってるみたいね。整備のとこでよく話聞くよ。』
「ああ、お陰様でな。」
片手はステアに、もう片手はコーヒーカップを口に運ぶ姿からは何も感じ取れない。わたしも何も言うことが無くなってしまって黙り込む。コーヒーの香りと静寂が車内を満たしていた。
神奈川を抜け出て湖に辿り着く。車から降りると先程よりも数段空気が冷たく、身を震わせる。それに気づいた彼が自分の着ていたジャケットをわたしに着せた。この人、こういうとこがモテるんだよなぁ。そうぼんやり考えていると目の前に彼が立った。
「……君が俺から離れていくことは仕方が無いと思っていた。君に執拗いと思われたくなくて物分かりのいい振りをしていたのかもしれない。けど君がいないのはもう耐えられないんだ。もう、物分かりのいい振りはしない。嫌だったら振りほどいてくれ。
俺には君が必要なんだ。」
冷たい手がわたしの手を柔らかく包み込む。わたしを真っ直ぐ見つめる目は他の誰かじゃない、わたしだけを映し出していた。水平線に映る月の光はまるで夢に見たあの夜のようだ。
ほんとうは今すぐにでもその手を握り返したい。けどずっと抱え込んだ気持ちが、握り返すのも振りほどくのもさせてくれない。
嫌なんかじゃない。嫌なわけがない。別れを告げてからも、ずっとあなたを愛していた。
だから、振りほどけない。
別れを告げたのはわたしの方だ。わたしはあなたの枷だ。あなたを繋ぎ止めておきたくないんだ。
だから、握り返せない。
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作者名:Risa x他1人 | 作成日時:2019年8月28日 16時