酒井 ページ14
水曜の夜、チューハイの缶、流れる映画のエンドロール。傍らにはソファに体を預けて眠る男。
酒井とは中、高、専門と学校が同じで所謂腐れ縁というやつ。互いの家を行き来しては飲みながら映画を見て眠りこけて、ってことを専門の頃から繰り返してきた。学校を出てからはお互いに仕事もしているし酒井に関しては峠を走るようになったから、学生時代よりも明らかに頻度は減っているが、月3くらいのペースで夜を過ごすという生活がかれこれ3年続いている。
わたしはというと人生の半分くらい一緒にいるこいつが好きすぎるんだけど当の本人は何も気づいてくれない。それどころかこうやって何回も夜を共にしているのに何かが起こる素振りすら見えない。
(そろそろ、諦めるべきなのかなぁ)
そんなわたしの気持ちを知らない酒井はわたしが愛用するブランケットをしっかり使って熟睡している。
手を伸ばして頬に触れる。すこし力を入れて摘む。柔らかい。
『なんにも分かってないじゃん、ばか。』
「分かってないのはお前だよ、ばか。」
気がつけばそんな声が聞こえて、気がつけば伸ばした筈の手は掴まれていて、気がつけば酒井は目を開けていた。
「俺がどんだけ我慢したと思ってるんだよ。
俺がどんだけお前のこと好きか分かってるのかよ。」
怒ったような口調で言うけどわたしの頭を撫でる手は驚く程に優しい。びっくりして、嬉しくて、少し恥ずかしくて、真っ赤になった顔を晒してると思うと死にたくなった。
『ごめん、けど酒井もわたしの気持ち知らなかったでしょう?』
やっとの思いで絞り出した言葉に酒井は首を傾げる。
『わたしだって、酒井のことずっと好きだったよ。』
そう告げると頭に添えられた手に引き寄せられて至近距離で目が合う。視線が絡まり、逃げられなくなって唇が重なる。何度も角度を変えながら重なる唇に、熱に浮かされたみたいに脳が熱を持つ。呼吸が出来なくて酒井の胸を叩くと、名残惜しそうに下唇を食んで離れていく。
『……っは、さか、い』
体の力が抜けて酒井の方に倒れ込む。受け止めてくれた体は大きくて、温かくて、優しい香りがした。
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作者名:Risa x他1人 | 作成日時:2019年8月28日 16時