スノードロップ【HiranoSho】 (ページ43)

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退職願を破り捨てる。

どうか、ブラックリストにも入れないでとも願う。

アイドルを辞めたのは誹謗中傷だったこと。

事務所は対処してくれなかったこと。

しばらく頑張ったけど、それでも辛くて自ら命を経つことも考えたこと。

『全部話してくれてありがとう。』

「これ以上は芸能界での期待や重圧に耐えられないと思って逃げ出しちゃいました。」

しばらく塞ぎ込んでいたときに藍沢さんが拾ってくれたということらしい。

『そしたら、俺は藍沢さんに感謝せなあかんね。』

向かいに座っていた俺は、Aちゃんの横に移動する。

『生きててくれてありがとう、アイドルを辞めてくれてありがとう。』

そのまま華奢な体を抱きしめると、鼻をすする音が聞こえた。

『まってごめん！泣いてる？嫌だった？！』

「違うんです。」

俺のワイシャツを控えめに握ったAちゃんの言葉を待つ。

「本当はずっと怖かったんです。逃げたら楽になると思ってたのに、いつかファンの人や事務所の人に見つかって、責められると思ってて。」

『そんな訳、』

「でも、海人くんに言われたんです。私が元気に過ごしてるだけで嬉しいって。」

こんなに優しくて、理解してくれてるファンが居たのに私は何から逃げたのかな。

そうポツリと呟く彼女を更に強く抱きしめる。

『今度はAちゃんの荷物になるもの、俺が処分するから。だから、これからも傍におって欲しい。』

「はい、これからも家政婦頑張りますね。」

顔を上げてニコッと笑った彼女は、昔と同じように天使に見えた。

そばにいて欲しいの意味、違う意味で捉えられちゃったけど。まあいっか。

『そういえば岸くんにいつ会ったの？！』

「岸さん…？ああ秘書課の！」

「昨日、このまま続けるのは無理だなって思った時に内線で電話したんです。」

『電話？』

「そしたら、海人くん担当で今出張でやることも無いし紫耀のことは気にしないでいいっすよ！って言われました。」

なんか、優しいお兄さんみたいでした。

ニコニコ岸くんの話をする姿すら嫉妬。

『あー嫉妬。やっぱり、俺の秘書になってよー。』

「嫌ですってー。」

今思えば、秘書付けてる副社長が秘書兼任してるってどういう状況だよ。

『考えとくだけでいいから！ね？！』

「 …分かりました。」

ポンと頭を撫でで、後で藍沢さんに根回ししておこうと企む。