スノードロップ【HiranoSho】 (ページ14)

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出勤初日、紫耀くんを起こすところから始まった。

なかなかに寝起きが悪いことを知った朝。

そして、少しビビり。

私のドアップ見てやーやー言ってた。

『着替えてくる』

とだけ言い残し、寝室に戻って言った紫耀くんを見送る。

「それにしても、広いなあ」

以前は近寄らなかった窓際に近づけば、東京全てを見渡している気分になる景色が見えて。

「紫耀くんが、社長さんか…。」

昔、人懐っこい笑顔で私の名前を呼んでくれていたのは幻想なのかとも思えてしまう。

『 Aちゃーん！ちょっと来てー！」

思いふけているのもつかの間、ご主人様からの呼び出しだ。

「どうしましたか？」

急いで向かうと、ベットに散らかった無数のネクタイ。

「何があったんですか？！」

『選びきれへんくなってしまって… 』

なにか起きたのかと心配したけど、
へらっと笑った顔を見て事件ではないと悟った。

笑ったその姿は昔と変わらないように見える。

「これとかどうですか？」

選んだのは、淡い紫のネクタイ。

『俺に似合うかな？』

「平野さんなら、なんでも似合いますよ」

少し無責任な言葉で反省はしているが、きっとこの人ならどんな服でも着こなしてしまうと思う。

『ありがとう。』

紫耀くんのお礼に対し頭を下げ、再度寝室を出た。

調子に乗ってかっこいいとか言っちゃったし。

8:00ピッタリ、紫耀くんが家を出ると言うのでお見送りに向かう。

『じゃあ、いってき… 』

「待ってください！」

振り向きかけた紫耀くんの腕を思わず引っ張ってしまったのに、

「ッ、ごめんなさい！」

『大丈夫やけど、』

引き寄せるように引いた彼の体が予想外に近くて、思いっきり後ずさってしまった。

「ね、ネクタイが曲がっていて… 」

そう言うと玄関の鏡に体を向けネクタイを触る紫耀くん。

『よしっ、これで治った？』

「あ、いや、、」

本人は気にならない程度なのかもしれないけど、

「こう、ですかね。」

少し背伸びをして、ネクタイを治してみたり。

『 …ありがとう。行ってきます。』

「行ってらっしゃいませ」

家政婦教習所で習った、ネクタイの治し方を実行してみたり。

ちなみに紫のネクタイを選んだのは、紫耀くんが昔好きって言ってた色だから。

本人は、覚えてるだろうか。