ネジ18つ ページ19
深夜、4人の男が1ヶ所に集まった。風が冷たい。コナンはひとつくしゃみをする。
誰もが皮肉を噛みしめた表情でなんと口を開くべきか迷っている。
コナンが鼻をすすりながら切り出した。
「よくもまあ、なんの連絡もしてないのに集まれたものだよね」
安室が吐き出すように言う。
「気付いてから考えてみればみるほど都合がいいことばかりだ。」
沖矢が薄く笑う。
「随分ぞっとしない話ですね……」
沈黙が降りる。空気は重い。
己のことを、そしてそれを取り巻く世界のことを知ってしまったからだ。
「洗脳より、タチが悪い」
「同意だ。……空間ごと丸々虚偽なんて」
「同姓同名の別人だね、恐ろしいことに」
3人はそれぞれ自嘲気味に言葉を紡いでいく。残る1人はその様子をポーカーフェイスを崩さぬまま静観していた。
白い衣装が揺れている。
「キッド。お前はどう思う」
何も喋らないその人物にコナンは呼びかける。キッドは落ち着いた声で返した。
「どうもこうも。今更何も思うことなどありはしませんよ」
3人がにわかに反応する。
「……まるで前々から知ってたみたいな口ぶりだな」
3つの探るような視線に晒されてもキッドは飄々とした態度を保つ。そしてなんてことないようにさらりと言い放った。
「ええ、知っていましたから」
先程までとは別タイプの沈黙が降りた。ちょっと、理解が追いつかない。
「…………知っていた?」
「ええ、知っていました」
「本当ですか?」
「こんな嘘をついたって得しませんよ」
キッドはコナンと安室の問いかけに丁寧に答える。表情は読めないままだ。
沖矢が何故、と呟く。そこで初めてキッドの仮面の下が露見した。
薄ら笑いは消えて、他の3人よりもずっと苦しげな、それでもどこか割り切った硬い顔になる。
「さあ。私が“最も接触がありえない存在”だったからじゃないですか」
投げ捨てるようにキッドは言う。
「そうか、『怪盗キッドの正体』ならまだしも、『怪盗キッド』は……」
「普通なら恋なんてありえない。だからねじ曲げきれなかったんでしょう」
痛ましくキッドは笑う。
「初めから知っていましたよ。この消せない想いも抑制できない感情も、全て作りものだと」
知っていながらも、捨てられなかった。本当に好きでいるような気持ちだったから。
3人は静かに耳を傾ける。キッドはずっと葛藤していたという。
当然だ。一体誰が信じるだろう。
気持ちどころか何もかも全て、模造品だなんて。
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Mito - すごくいい作品ですね 私はこの作品が大好きですよ (2021年3月28日 23時) (レス) id: 121f4f7b22 (このIDを非表示/違反報告)
水落(プロフ) - コメントありがとうございます!色々読んで頂けているようで、ありがたい限りです!(まさかほろにがクラゲさんからコメントを頂けるとは思っておりませんでした、光栄です!こちらこそ応援してます!) (2019年12月6日 14時) (レス) id: 1398ffddc4 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - はちゃめちゃに名作でした…おかしいな、と思ったことをそのまま世界観にしてしまう発想が素敵・:*+.\(( °∀° ))/.:+連載中の他作品も読んでます、いつも細部の凝り方がすさまじいなと圧倒されます……これからも応援してますね!! (2019年12月5日 18時) (レス) id: 9807b016db (このIDを非表示/違反報告)
水落(プロフ) - シンアさん» 最後まで応援ありがとうございました!これからもお楽しみいただける作品を作れるよう頑張ります! (2019年4月22日 21時) (レス) id: 1398ffddc4 (このIDを非表示/違反報告)
シンア - 完結おめでとうございます。お疲れ様でした…。また作品楽しみに待っています。 (2019年4月22日 17時) (レス) id: f6e4c29514 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:水落 | 作成日時:2018年11月3日 18時