外れたネジほど愛おしい【名探偵コナン】

ネジ9つ ページ10

「そういうわけで、1度あなたとは話してみたかったんです。偶然にもこうして会えたのですからお茶でもどうです？」

穏やかに微笑みを向けてくる沖矢の視界から隠すように安室はAの前に立ってぴしゃりという。

「結構です。彼女は既にその予定がありますから、僕と。」

全然そんな予定は知らないが、安室の中では確固としてあるらしい。

「ホー…譲っては頂けませんか」

「当然でしょう。Aさん、あなたもはっきり断っていいんですよ！」

安室が首を回してAを見る。

先程のことを反省してうっすら耳を傾けていたAはまた手をぶらぶらさせながら言った。

「お茶は1人でするのでお気になさらず」

「えっ…」

「そうきましたか…。なるほど手強い…」

沖矢が呟くのと同時に安室はくるりと無駄のない動作で体を翻し、前後左右に振れるAの手をもう一度はっしと掴んだ。

ぐっと顔を近づけ困った表情を見せる。

「そんなつれないこと言わないでください…夕方に2人でお茶をするのはあなたと初めて会った日から僕達の日課じゃないですか」

果たしてそうだったろうか。そもそも安室は何も口にしていなかった気がするけれども。

「沖矢さんに気を使ってそう言ったのでしょうが、そんな簡単に無しにするなんてあんまりですよ。」

気を使ったわけではない。こういう時、どちらを選んでも失敗する気がするから彼女はどちらも選ばないだけなのだ。

大体、Aが日課にしていたのはカフェでコーヒーの香りに浸かることであって、安室と時間を過ごすことではないはずだし…。

Aが口を閉じたままでいると、安室は焦れたように軽く手に力を込める。

今度は痛くなかった。

「…寂しいじゃないですか。」

「…寂しいんですか？」

「ええ、寂しいです。あなたが好きですから」

何故、と問う前に理由が言われた。その理由にまた何故と聞いても意味が無いことはもう学んでいる。

「同感ですね…僕もあなたが好きになりましたから、いつまでもそうされると寂しいです」

失礼、と言いながら沖矢が安室の肩を引きAから遠ざける。

「邪魔をしないでもらえますか、あなたは落とし物を拾ってもらっただけでしょう。もうお帰りになられてもよろしいのでは？」

「今言ったじゃないですか、彼女を好きになったと」

「そんなインスタント食品みたいなノリの好意と一緒にしないでください」

「面白い例えですが的外れですね」

その後1時間弱こんなやりとりが続いた。

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