むつらぼしのおひめさま

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すばるは中庭にあるベンチに腰掛け、パンの袋を開いた。濡れた葉っぱと土の匂いよりも濃いケチャップの匂いが広がる。その匂いが鼻腔を刺激して、頭がソーセージブレットのことだけになる。それに応答するかのようにお腹が音を立てた。


「……いただきますっ」


大きく口を開けて、かぶりつく。
冷めても美味しいのが麻布十番高校の購買部の売りだ、ぷりっぷりのソーセージの肉汁とパンの柔らかさがさらに食欲をそそる。


(んん〜〜〜美味しい〜〜〜〜……)


口についたケチャップを指で拭って、もう一口。今度は控えめに味わって。
ご飯ならなんでも好きなすばるはご飯の時間が寝る時間の次ぐらいに好きだ。トリップしても食べ物の美味しさが変わらない事に安堵し、泣きそうになったのは本人だけしか知らない話である。

最後の一口もしっかり頬張って、咀嚼した。
ほっと一息ついて、水筒の水を飲みながら空を見る。
淡い水色の空。ここは、あのアニメの世界なんだと嫌でも思い知らされる。
何気ない日常を謳歌。それは当たり前のようで、当たり前じゃない。これはイレギュラーだ。私の人生を少しだけ狂わしている。
水筒を下ろして、空から目を逸らす。そして誰にも聞こえないように静かに呟いた。


「……帰りたいなぁ……」


家族の顔が浮かんで、少しだけ涙がでた。

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