心の空 (ym×ar) (ページ11)

今日:6 hit、昨日:0 hit、合計:1,043 hit

＊ページ11

「だりー」「早く帰りたいねー」

至る所で飛び交う愚痴。

新しい学校に、新しい友達。

あれから茜のおかげで何とか新しい友達と会話することが出来た。

まだきっとぎこちない。

だけどそれは時間が解決してくれるはず。

このままうまく溶け込んで、充実した高校生活を送りたい。

相変わらず島田の話を聞く人はいない様子で、何度も汗を拭く島田に対して「キモイ」という言葉さえ聞こえてきた。

私は何も聞いていない、聞こえないフリをして、結局強く降り出した雨の粒を見つめて目を閉じる。

やがて島田の話は終了し、ガタガタと椅子を引く音がして一日が終了した。

「莉々香！帰ろう」

優子ちゃんと並んで、茜が私を呼ぶ。

「私も一緒に帰っていい？」

私の横から言ったのは、ティナ。

「うん！みんなで帰ろうよ」

茜は嬉しそうに笑う。

私は中身の入っていない薄い、だけどピカピカのカバンを手に取ると静かに席を立った。

立ち上がると、ほのかに香水が香る。

嗅いだことの無い爽やかな匂い。

沖縄の澄んだグリーンの海を想像させるような、いい香り。

それは私の後ろの席の彼から漂っていて、彼が席を立ったことを意味していた。

「雨、やっぱり降ったな」

彼は無表情にそう言うと、私の返事も待たず教室から消えていった。

"どうして雨が嫌いなの？"

彼に聞いてみたかった。

あの瞳が、浮かぶ。

悲しくて綺麗な瞳。

私は小さくなる彼の背中に聞こえないような声で「バイバイ」と言った。