白銀の剣と虚弱体質 【文スト】【ドストエフスキー】

arrest ページ39

太宰side

ロシアからの旧友...否、悪友と云うべきか。

ドストエフスキーとの接触は何度か行われた。

この接触さえ彼の仕組んだ事なのでは、とさえ思う。

魔人と呼ばれた男だ。
目の前で身柄を抑えられ、特務課の作戦員が彼に触れた時、作戦員は死んだ。

あの男に触れた瞬間に死んだのだ。

安吾の冷静な指示でその場での被害は抑え、身柄拘束も成功したが何か引っ掛かる。

何度も云うが、あの魔人だ。
こう簡単にことが進む事はありえるものなのか。


そんな思考を繰り返していると自分を尾行する気配に気が付いた。

追っ手の数は...正確に解らないが少数。

比較的人が群がる場所で追跡を撒こうと人で溢れかえる競馬場の門を潜った。

それらしく見えるように馬券を買い、周りに気を張る。


珍しい事もあるものだ。適当に買った馬券が中った。

追っ手の緊張は解せないが無意識のうちに喜んでいたようだ。

それを自覚し、周りを見回すと糸目の男に話し掛けられた。

｢おや、貴方...中たりましたね。｣

何処からか醸す不思議な雰囲気に視線が固定される。

そして、彼が盲目であることに気付いた。

｢えぇ、光を失ってから見えるモノも増えましたよ。｣

そう微笑む男に気味悪さを覚え、嫌な予感を感じ取った。

｢因みに、明日の貴方の運命も中てられます。｣

｢本当に？｣

男の不気味な言葉を覆い隠すように言葉を紡げば男は先より微笑を深めた。

｢えぇ、貴方に明日は来ません。元マフィア幹部太宰治。共謀殺人138件、恐喝312件、詐欺その他625件の犯罪容疑で逮捕する。｣


唐突に話し始めた男の言葉は私の過去を知った人間のモノだった。

如何やら追っ手はあの《猟犬》部隊だったらしい。

｢はぁ...追っ手には気付いていたが君たち相手で人混みに逃げ込んでも無駄だったか。｣

｢えぇ、群衆に紛れるのなら群衆ごと消すだけです。｣

相性の悪いタイプだと一目で感じた。

｢ふふ、聞こえますよ。貴方の憤り。｣

｢...君とは気が合いそうだね。
ひとつ、教えてくれ。何故、今頃になって逮捕しに来たんだい？｣

軽い皮肉を零し、この逮捕の疑問点を尋ねる。

相手はすんなりと答えた。

｢奇妙な事に或る時急に指紋や録音、写真などの証拠が復活したのです。それはまるで｣

『消されていた照明の切換機が再び灯ったように』

あぁ、矢張りこれは魔人の...。

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