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53.無知 ページ4

SIDE.童磨


「俺は、君の兄さんを知っていたよ」

そう言って俺は彼女を見やった。蝋燭(ろうそく)の炎がゆらりと怪しく揺れて、彼女の幼い横顔を照らす。Aちゃんは意味が分からないと言った顔をしたけど「なんで?」と、シンプルな疑問で返してきた。鬼になり損ねた特別な子。人間の顔で俺に尋ねてくる彼女に目を細める。

「君の兄さんを鬼にしたのは猗窩座殿だ」

微笑んだ俺に、彼女の表情が一瞬で強張った。だけど理解が遅れたのか認めたくないのか、半信半疑の顔でバカにしたようにふっと鼻で笑う。

「何を言ってるの」

「君の兄さんが彼に頼んだ。"俺を鬼にしてくれ"と」

「…そんなこと言うわけない」

「強くなりたかったからだ」

「いいや、言わない。兄は強かったんだから、誰よりもどんな鬼よりも」

「彼はもっともっと強くなりたいと懇願しにきたさ。そして少しばかり鬼になって、より強い鬼のような人間になったんだ」

言うならば彼はまさに、君みたいな子だった。二人の間に同じ血が巡っているかどうかは知らないが、志す先は同じだった。

「自分で鬼に?」

Aちゃんはブツブツと何かを唱えながら頭を整理しているが、彼女の頭はぐるぐると回っているのか「そんな訳ない」と今一度繰り返すように自分に尋ねている。だけど、ふっと顔を上げた彼女は眉をひそめて猜疑(さいぎ)の瞳で俺を見ていた。

「…やっぱり鬼の言葉なんて信じられない。あたしには誰も彼も、みんな嘘をついているように思える」

「そうだね。君が思うものが真実かもしれない。だが俺が本当かもしれない」

俺の言葉に酷く表情を歪める彼女。理解し難いというよりもしたくないのか、何度も唸っては何かと格闘してる。目を細めた俺は扇子を軽く揺らした。

「未だ話は終わらない。君のお兄さんは鬼になり、しばらくして今度は無惨様のところに現れた」

あれは随分前のことだ。猗窩座殿達は覚えているかなぁと俺は付け足す。

「彼はまだまだ強くなりたいと言った。そして無惨様に"稀血である自分の妹を鬼にして欲しい"と頼み込んだ」

そういや、そうだったなぁ。彼は哀れで寂しい人間だった。有る物に感謝せず、延々無い物をねだる。助けてやりたいと思ったが、そう考える頃にはもうこの世に居なかった。だが信者にもそんなものは沢山いる。強欲なところはヒトもオニと同じだ、そういうものなのだ。業も欲も全て棄てた末、やっと極楽浄土にいけるというもの。
果たして彼女のお兄さんはどっちへ行ったのだろうか。いやはや死人に口無し、もはや聞く当ても無し。

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- 更新頑張ってください!楽しみに読んでいます◎ (2020年11月1日 21時) (レス) id: ed14337de3 (このIDを非表示/違反報告)
カレー職人 - 猗窩座の小説なかなかなく、とても面白いです!需要なんて私にとってはありありです!是非、更新してほしいです! (2020年10月23日 0時) (レス) id: 1c0023d245 (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - イトカワさん» コメントありがとうございます!そう言って頂けて、すごく嬉しいです。一人のキャラに絞ったお話なので需要が有るのか無いのか…と、模索しつつだったので反応頂けるととても頑張れます!これからも覗いていただければ幸いです。 (2020年4月22日 17時) (レス) id: c0fa65fbb4 (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - りんさんの文章がとっても好きです。軽妙なのにふざけてなくて、重すぎず硬すぎず、ずっと読んでいたい文章だな〜と思いました。 (2020年4月20日 23時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:りん | 作成日時:2020年3月30日 0時

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