62.選択 ページ13
鬼の名前は猗窩座というらしい。俺の名前を聞いたそいつは、馴れ馴れしく俺のことを下の名前で呼び「鬼になることを選べ」とそればかりを言う。
半刻前に飛ばした烏はまだ戻ってない。他の隊員達が来る気配もない。俺は鬼の目の中にある参の字を見つめる。時間稼ぎはもう出来そうにないと感じていた。
肋が数本、鎖骨と骨盤、そのうえ右腕は飛ばされ、左足は骨が砕けたのか動かない。
俺は自分の体に付けられた傷の数を頭で計算していた。俺が鬼に当てた幾らかの攻撃はどうだ。首の傷を見るともうすでに回復している。
「死んでしまうのか。勿体無い…」
俺の髪を掴んで持ち上げ「選択の時は近い」と猗窩座は言った。視界が、鬼の顔が霞む。全身が痛くて仕方ない。呼吸も苦しい。死ぬのか、俺は。思い出すのは大切な家族と仲間達、そして愛しい妹のこと。
彼女に、鬼殺隊になって欲しくないと言ったのはあの一回きりだった。自分が死んでしまうのなら、もっと強くやめろと頼めばよかった。彼女は誰よりも素敵な婚約相手を見つけて、俺とは正反対の幸せな暮らしをして欲しかった。なのに俺が弱いせいで彼女は死んでしまうかもしれない。
「お前は、死ぬのが怖いか?」
俺は馬鹿馬鹿しいと思いつつも鬼に聞く。口角を上げた鬼は即答した「怖いものなどない、俺は強い」と。
「…鬼になれば、死なないのか」
開いた口の隙間から生暖かい液体が、目からも水が流れて顎を伝い落ちる。視線を落とすと地面に広がるのは血の海。もはや自分のなのか猗窩座のなのか、それとも他の誰かのなのか、もはや分からない。
「まだ………、死にたくない」
「これで最後だ。選べ」
猗窩座の声が脳を揺らす。俺は死んでしまい動かなくなった隊員達から視線を逸らし、鬼の顔を見つめた。俺は既に感覚の無い唇をゆらりと開く。
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紘 - 更新頑張ってください!楽しみに読んでいます◎ (2020年11月1日 21時) (レス) id: ed14337de3 (このIDを非表示/違反報告)
カレー職人 - 猗窩座の小説なかなかなく、とても面白いです!需要なんて私にとってはありありです!是非、更新してほしいです! (2020年10月23日 0時) (レス) id: 1c0023d245 (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - イトカワさん» コメントありがとうございます!そう言って頂けて、すごく嬉しいです。一人のキャラに絞ったお話なので需要が有るのか無いのか…と、模索しつつだったので反応頂けるととても頑張れます!これからも覗いていただければ幸いです。 (2020年4月22日 17時) (レス) id: c0fa65fbb4 (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - りんさんの文章がとっても好きです。軽妙なのにふざけてなくて、重すぎず硬すぎず、ずっと読んでいたい文章だな〜と思いました。 (2020年4月20日 23時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:りん | 作成日時:2020年3月30日 0時