検索窓
今日:2 hit、昨日:4 hit、合計:11,676 hit

62.選択 ページ13

鬼の名前は猗窩座というらしい。俺の名前を聞いたそいつは、馴れ馴れしく俺のことを下の名前で呼び「鬼になることを選べ」とそればかりを言う。
半刻前に飛ばした烏はまだ戻ってない。他の隊員達が来る気配もない。俺は鬼の目の中にある参の字を見つめる。時間稼ぎはもう出来そうにないと感じていた。
肋が数本、鎖骨と骨盤、そのうえ右腕は飛ばされ、左足は骨が砕けたのか動かない。
俺は自分の体に付けられた傷の数を頭で計算していた。俺が鬼に当てた幾らかの攻撃はどうだ。首の傷を見るともうすでに回復している。

「死んでしまうのか。勿体無い…」

俺の髪を掴んで持ち上げ「選択の時は近い」と猗窩座は言った。視界が、鬼の顔が霞む。全身が痛くて仕方ない。呼吸も苦しい。死ぬのか、俺は。思い出すのは大切な家族と仲間達、そして愛しい妹のこと。
彼女に、鬼殺隊になって欲しくないと言ったのはあの一回きりだった。自分が死んでしまうのなら、もっと強くやめろと頼めばよかった。彼女は誰よりも素敵な婚約相手を見つけて、俺とは正反対の幸せな暮らしをして欲しかった。なのに俺が弱いせいで彼女は死んでしまうかもしれない。

「お前は、死ぬのが怖いか?」

俺は馬鹿馬鹿しいと思いつつも鬼に聞く。口角を上げた鬼は即答した「怖いものなどない、俺は強い」と。

「…鬼になれば、死なないのか」

開いた口の隙間から生暖かい液体が、目からも水が流れて顎を伝い落ちる。視線を落とすと地面に広がるのは血の海。もはや自分のなのか猗窩座のなのか、それとも他の誰かのなのか、もはや分からない。

「まだ………、死にたくない」

()しくも鬼殺隊になった妹の隊服を着た姿をまだ一度も見ていない。最終選別のお祝いも出来ていない。俺は彼女に何もしてやれていない。彼女がまだ小さい頃に鬼殺隊にはいったせいで、一緒に過ごした時間も短い。彼女の目に映る俺はきっといつも、兄妹としての兄でなくて鬼殺隊の兄だ。それでいいのか。

「これで最後だ。選べ」

猗窩座の声が脳を揺らす。俺は死んでしまい動かなくなった隊員達から視線を逸らし、鬼の顔を見つめた。俺は既に感覚の無い唇をゆらりと開く。

続く  (更新停止中) お気に入り登録で更新通知を受け取ろう

←61.可哀想



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (32 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
60人がお気に入り
設定タグ:鬼滅の刃 , 猗窩座 , 炭治郎
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

- 更新頑張ってください!楽しみに読んでいます◎ (2020年11月1日 21時) (レス) id: ed14337de3 (このIDを非表示/違反報告)
カレー職人 - 猗窩座の小説なかなかなく、とても面白いです!需要なんて私にとってはありありです!是非、更新してほしいです! (2020年10月23日 0時) (レス) id: 1c0023d245 (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - イトカワさん» コメントありがとうございます!そう言って頂けて、すごく嬉しいです。一人のキャラに絞ったお話なので需要が有るのか無いのか…と、模索しつつだったので反応頂けるととても頑張れます!これからも覗いていただければ幸いです。 (2020年4月22日 17時) (レス) id: c0fa65fbb4 (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - りんさんの文章がとっても好きです。軽妙なのにふざけてなくて、重すぎず硬すぎず、ずっと読んでいたい文章だな〜と思いました。 (2020年4月20日 23時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:りん | 作成日時:2020年3月30日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。