09.悪魔か鬼か外道か ページ10
陽が山の奥に沈む頃、あたしは薄暗い橋の上で穏やかに流れる川を眺めていた。炭治郎と別れてから幾刻経ったのだろう。様々なことを考える内に暗い場所へ、知らない所まで来てしまった。今日はもう疲れた。
鬼になってからか、人間達の声が大きく聞こえるようになった気がする。人間の頃には気にならなかった街の喧騒や、小さな会話などが細やかに聞こえるのだ。そして外に並ぶ電灯がやけに眩しい。些細だが、確実にあたしは鬼になっている。
「お前、なんだが不思議な匂いがするな」
それは何の前触れもなく突然聞こえた声。ヒュンと背中が冷たくなって、振り向く前にこちらを覗き込んできた声の主と目が合う。吊り上がった瞳に尖った牙、肌の色は普通ではあり得ない凍りついたような薄い灰色。異様な見た目だったから直ぐに鬼だと分かった。
「鬼か?…いや人間?」
その鬼は見た目だけではあたしがどちらなのか判断出来ないのか、至近距離であたしの匂いを嗅ぐ。鬼が側に来ると、ツンと生臭い匂いが鼻をついた。血肉の臭いだ。思わず顔をしかめたあたしだが、鬼は構うことなく独り言を話してる。
「まさか稀血なのか、そうなのか」
「まれち?」
「お前が稀血。それなら喰うまでだ」
「食うって……あたしはおに、」
鬼の言葉を訂正しようとした瞬間、突如みぞおちの辺りに痛みが走った。
「ぎゃあ!!」
それは言葉では表現出来ない程の激痛で、あたしはお腹を押さえて前屈みになる。地面には目を覆いたくなるぐらい大量の鮮血が飛んだ。
そして喉から出た自分の悲鳴が人間のものではないことに背中がぞわりと凍った。獣と悪魔を混ぜたような聴くに耐えない声が声帯から飛び出す。
「う"ううう!!痛い!!!!」
あまりの痛みに足元が揺れたあたしはグッと歯を食いしばる。腹を押さえる指に、ぬるりと触れる血の感触。考えたら頭がクラクラしてきた、今にも卒倒しそう。
「死なないだと、しぶとい奴だな」
そう言って、手を振り上げる鬼。月の光に反射して鬼の長い爪が光る。
死んだと思った。死んだのにまた死ぬって、よく分からない。分からないが、こんな雑魚みたいな、分からないけど何処にでも居そうな鬼に殺されるなんて笑えない。まだ死にたくない。死にたくない!!死にたくない!!!
だって、まだ何かを忘れてる。まだ思い出してない事がある。
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作者名:りん | 作成日時:2020年1月25日 0時