48.生きる理由 ページ49
「黙れ!鬼になりきれなかった哀れな人間の分際で!!」
叫んだ瞬間、グンと手の爪が鋭く伸びる。そして自分から出たその思っても見ない台詞におどろいた。こんな事を言いたかった訳じゃ無い、だけどあたしの口が勝手に言ったのだ。そして自分の意思に反して、彼の顔目掛けて尖った爪が生え揃った手を振りかぶる。
「!!!」
目を丸くした彼はその手を素早く避けた。流石に鬼殺隊なだけある。感心する暇もなく目の前にいる彼は大きく口を開いた。
「落ち着いて、こんなところで鬼なんかになったら…」
「あたしは鬼じゃ無い!!!」
感情が滅茶苦茶に揺れてる。自分は鬼じゃない、鬼は嫌だと思うのに、爪は伸び牙は尖り、目が血走って目の前にいる奴を殺してやろうと脳が言う。この姿をしたものを鬼だと皆は言うんじゃないのか。
本当は人間を傷つけたくないのに、そう思うのに自分の心と正反対の言動をしてしまう。
「なんの騒ぎだ!」
あたしはふっと、声がした方を振り向いた。視界の先に漆黒の隊服。それらを見た瞬間、鬼殺隊だと脳内で再生する。なぜ頭の中なのか、それは口が思うように動かなかったからだ。その代わり、あたしの足は強く地面を蹴る。誰かが通報したのか、隊士がゾロゾロと集まってきた。さっさと街から出ようとかけだすあたしを沢山の野次馬が見てる。その隙間を縫って走り、薄暗い森を目指した。
「おい!止まれ!!」
走り出したあたしを追いかけてくるのは見知らぬ鬼殺隊達。捕まるものかと彼等を睨む。
「その子は鬼じゃない!」
後ろで彼がそう叫んだ。だけど振り返らずに走る。
「鬼じゃないんだ!追いかけるな!」
耳に響く声は心を深く突き刺す。目を細めたあたしは必死で足を回転させた。殺される訳にはいかないのだ、こんなところで。あたしには生きたい訳がある。たとえ後付けでもいい、有ることだけが確か。
人混みを抜け街から飛び出し森の中へ滑り込み、それでも走る。足の筋肉が膨らみ、伸びた牙が口内を突き刺す。ぱちぱちと燃えるのは、怒りのような感情に近い何か。感覚を研ぎ澄ませて一人の鬼を探すあたしは、グルルと低い声を喉から声を絞り出す。
「アカザ」
その声は涙で震えた。
「ドウシテ…」
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作者名:りん | 作成日時:2020年1月25日 0時