検索窓
今日:8 hit、昨日:18 hit、合計:67,328 hit

04.不協和音 ページ5

広い和室の中に空気のようにポンと現れた鬼は広角をあげて、床ごと奥の方まで吹き飛んだ部屋を見渡す。いつの間に現れたのか猗窩座とはまた違った印象だった。

「何やら騒がしいね」

「…………」

「あぁ、可愛い子がいるじゃないか。猗窩座殿の連れかな?」

驚くあたしを尻目に、明るい表情であたし達を交互に見た。何やら人懐こそうな鬼だが、少し奇妙な感じもする。この鬼が来た瞬間の違和感はなんだ。よく分からないが、彼は色んな匂いを体にまとわせている。肉が腐敗した臭いや、女のきつい香のような匂い、あとは鉛のような。匂いを必死で嗅ぎ分け考えるあたしを横目に、冷めた瞳で彼を睨んだ猗窩座。

「お前には関係ない」

「はじめまして、俺の名は童磨。君はなんて言うのかな」

「…………A」

猗窩座を無視してあたしに笑う童磨。鬼と呼ぶには距離感の近い彼だが「可愛い名前だなァ」と何ら気にする様子もない。

「女、さっさと立て。外に行くぞ」

「なんだ、もう行くのかい?」

つまらないと唇を尖らせた童磨は、ひらりと扇子を揺らしてあたしを見た。

「なんだろう。君、少し変わった匂いがするね」

「え?」

「とっても美味しそうな匂いだ。栄養がたくさんありそうな」

ニタリと微笑んだ童磨に背筋が冷たくなる。怯えて固まるあたしの腕を、こっちへ来いと強く引いた猗窩座。

「この男の言葉をいちいち間にうけるな。どうせ口から出まかせだ」

行くぞと言われ、どこに行くのだと尋ねる暇もない。だがこの危険そうな臭いのする鬼とここで二人きりと言うのも考えもの。即決し、慌てて立ち上がったあたし。
その瞬間、ひときわ大きな琵琶の音が"ベン"と部屋に響く。途端に身体がぞわりと浮く感覚がした。歪んでいく視界の隅で、こちらにヒラヒラと手を振る童磨が見える。

「Aちゃん。また会おう」

童磨の楽しげな声が耳の奥に残る。彼の言う"また"に、妙な説得力があるのはなんなのか。

「鬼になんてなるんじゃなかった」

あたしの小さな呟きが和室に消える。猗窩座の不機嫌な横顔、不思議な城と琵琶の音は、いつまでもあたしの脳裏にべったりと焼き付く。

05.豹変→←03.聖戦



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.4/10 (23 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
67人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:りん | 作成日時:2020年1月25日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。