32.悪夢 ページ33
「…………………」
屋敷の中は物音一つしない。あまりにも恐ろしい夢だったせいか、思い出すと呼吸が荒くなってくる。地面に飛び散る血と、温もりの無い二人の青白い顔。頭の中が不揃いな自分の息遣いでいっぱいになった。あたしは右手でギュウと心臓を押さえる。呼吸ってどうやってするんだっけ。吐く?吸う?どのタイミングで?
「はっ………、はぁ、はあっ」
息がちゃんと出来なくて苦しい。咄嗟に布団から這い出し部屋を飛び出た。廊下は真っ暗で他の部屋からも人の気配はしない。
「なんで誰もいないの…」
廊下の先の暗闇から、突然に鬼が迫ってくるような気がした。自分も殺されるかもしれない。
「童磨」
怖くなって思わず廊下の真ん中で彼の名前を呼ぶ。肺が痛い、息ってどうやってするんだっけ。分からなくなってパニックになり「どうま」と彼の名前を今一度呼んだ時、ふんわりと背中に体温を感じた。
「どうしたんだい」
背後からそう尋ねられ、振り返ったあたしは優しい表情をしている彼に必死で先程のことを伝える。
「変な、ゆめみたの」
親と兄弟が殺されてた。無音の世界で赤色の海の中に寝そべる二人はピクリともしなくて、血の通ってない顔でこっちを見る。もう遅いと、その目が言うのだ。次は自分の番なのでは無いかと異様に怖くなった。
あたしは必死で夢の状況を彼に伝えた。すると童磨はニッコリと笑ってあたしの身体を抱き締める。
「こわい夢を見たんだね」
「あたしの家族が鬼に殺される夢を、」
「もう大丈夫だ。俺がいる」
「…………………」
童磨の身体は湯たんぽみたいに暖かかった。彼の腕の中に包まれて、あたしは静かに目を閉じる。童磨からは部屋で焚いているお香なのか上品な白檀の濃ゆい香りがした。
鬼に
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作者名:りん | 作成日時:2020年1月25日 0時