02.猗窩座 ページ3
鬼なんて、と思ったのは本当に直ぐの事だった。鬼に生まれ変わったあたしは、なぜか不思議な城に案内される。階段や床、襖に和室。様々なものがあらゆる場所に不自然な位置で建築されたおかしな空間。これも鬼ならではの力なのかと感心していれば、そこで紹介されたのは桃色の髪をした鬼。
「猗窩座」
ツンと冷たい瞳の鬼に、ぶっきらぼうにそう言われた。
「あ、あかざ……?」
「俺の名だ」
「妙な名前…」
率直に思ったことが口から出てしまった。すると彼は怪訝な顔をしてあたしを見る。馬鹿そうな奴、とでも言いたげな目だ。
「お前は強いのか?」
唐突にそう聞かれた。彼の言う"強い"とは何の話だ。お酒?それとも三半規管?まさか将棋?分からないという顔をしているあたしに、彼は淡々と話を進める。
「無惨様が選んでお前を鬼にした。つまりお前は前途有為で
「なんの話…ですか」
「弱いは悪で強いは善。弱い者は生き残れない。そんな話だ」
ハッキリと告げる彼の言葉には、見事なまでに濁りも迷いもない。思わず気圧されるあたしに「そんな顔をしているとすぐに死ぬ」と彼は言った。
「でも、あたしは何で鬼になったのか分からない」
「無惨様の為に生まれたのだ。無惨様の仰せの通りに、出来ぬなら死ねばいい、それがこの世の摂理」
頭がぐるぐると音を立てる。何を言っているのか理解出来ないけど、意味不明と言ったところで分かるように説明してくれる人でもなさそう。
「多分、なりたくてなったんじゃ…」
あたしは呟くように言った。その瞬間、般若の形相をした猗窩座の手が自分の顔に向かって伸びてくる。唐突な出来事に目を丸くしたあたしの首に掛けられた手。そのまま床に叩きつけられたと思えば、彼の骨張った親指と人差し指が喉に食い込んだ。
「さっきから下らないことをうだうだと。俺に何と言って欲しい」
「………」
苦しい!そう思ってもがくけど、猗窩座はあたしを強く掴んで離さない。
「死にたいのなら今、ここで殺してやろうか?」
こちらを見下ろす鈍色の瞳がぎらりと光る。肌に食い込む猗窩座の手を必死に剥がそうとするが、びくともしない。
「もう一度言う。弱い奴は嫌いだ」
恐ろしい顔をした彼があたしに告げる。あたしは弱いのか?いや、そんな事はどうでもいい。徐々に気管が細く狭くなっていき、視界がぐらりとぼやけ出した。どうでもいいけど、まだ死にたくない。歯を食いしばったあたしは固く拳を握り締め、それを思いっきり猗窩座目掛けて振りかぶった。
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作者名:りん | 作成日時:2020年1月25日 0時