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15.インフェルノ ページ16

もがけばもがくほど、海の底に落ちた。その先は光も何もない真っ暗闇だとあたしは知ってる。「鬼じゃない、鬼になりたくない、人を殺したいなんて思った事ない!」そう言いたいのに、叫んでやりたいのに。声の代わりにガボガボと音を立てて口から沢山の泡が出た。苦しい、死ぬ。

「殺さないで!」

今のはあたしの声じゃない。ハッキリと聞こえたその台詞に、あたしはふっと顔を上げた。目に入る景色。そこは海の底じゃない、さっきの森の中だ。

「お願い、見逃して…!」

森の奥から酷く怯えた声が聞こえる。その声は、あたしを心の奥底から悲しくさせた。

「猗窩座!!」

地面を強く蹴って立ち上がり、あたしは先程とは打って変わって物凄い勢いで森の中にいる猗窩座の元へ走っていた。木と草を抜けると、不自然に開けた場所に猗窩座と詰襟のようなものを着た女の子が立っていた。あの服、恐らく鬼殺隊だ。
その周囲には沢山の人が転がっている。どれも血溜まりにポンと落とされたように落ちていて、息があるようには見えない。全員、猗窩座が殺したのか。

「鬼が………二体も」

彼女はあたしの姿を見るなり一層怯えた顔をする。そしてあたしにも刀を向けた。小さく震えているその刀にはベッタリと黒に近い赤色の血がついていて、彼女の目の前に立つ猗窩座はもっと濃い血の匂いがした。
心臓がぎゅうと握り潰されるような感覚に陥り、浅い呼吸を繰り返す彼女を見た後、あたしは猗窩座に呟いた。

「その人を殺さないで…」

それはまるで彼女が猗窩座に命乞いしていたように、今にも消えそうな弱い声だった。

「もうその人には戦う意志がないよ」

あたしがそう伝えると、猗窩座は何も言わずにその隊士に背を向ける。緊張の糸がきれるようにガクンと膝から崩れ落ちた彼女。戦意喪失しているのか、もう襲いかかってくる気配は無さそう。あたしはちらりとそちらに目をやった後、また直ぐに逸らして猗窩座の後を追いかけた。

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作者名:りん | 作成日時:2020年1月25日 0時

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