14.鉛と薄紅色 ページ15
月光が輝く中、前を歩く彼を見てふと思う。猗窩座は人を食う鬼の割に髪の色がとても綺麗。美的感覚など有るのか無いのか、なぜその色にしたのかと聞こうとしたが、あたしはふと昼間の出来事を思い出した。
「ねぇ、そういえばさぁ」
花札の耳飾りをした鬼狩りが居たのと彼に伝えた。すると猗窩座は目を丸くしてあたしの話も聞かずに「殺したか?」と聞いてくる。
「殺したって……そんな訳ないでしょ」
あたしの言葉に彼の瞳がギラリと鈍く光った。
「逃したのか?」
「違う。あたしがお金無くて困ってたのを助けてくれたの」
「そんな怖い顔されても、普通は助けてくれた人殺さないし」
「…普通?お前は無惨様が仰られた事を覚えてないのか」
「まず、なんで殺さなきゃいけないかが分から……」
言いかけた瞬間あたしの顔目掛けて猗窩座の右手が飛んでくる。
「え、」
それはあまりにも鮮明な音で、ゾワリと背筋が冷たくなった。自分の髪の毛がちらりと数本落ちる。訳が分からず猗窩座を見上げたが「ここにいろ」とだけ言って、ピンク色は飛び跳ねるように森の中へ消えた。
「…あか、ざ………待っ……!」
驚いたからか、喉が閉まっていて声が出ない。猗窩座があたしを一人にして直ぐに、人間の悲鳴のようなものが聞こえた。腰が抜けたのか、立ち上がれないあたしは強く耳を塞ぐ。塞いでも耳奥に聞こえる断末魔。目を固く閉じると生ぬるい赤を感じる鉄の臭いが鼻をツンとついた。見なくても解る、痛い音が聞こえる、あれは人が死ぬ音だ。猗窩座の唸るような声、血の匂い。冷たい空気があたしの頬を撫でて、そして風が
何故か生死を感じると、耳を塞ぐ手の爪がぐっと伸びてくる。尖った牙が生えて、獣のように暴れ出したくなる。人を殺したいなんて思った事ないのに、殺せると誰かが耳元で
「なんで?殺す理由なんてあたしには無い…!」
言い聞かせる。だけど聞こえない。あたしの体は真っ暗な底の無い海に深く堕ちていく。
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作者名:りん | 作成日時:2020年1月25日 0時