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ギラリと光る彼の鋭い視線に、やってしまったと思った。わざとでは無いと謝りたかったが体が棒のようになって動かない。たらりと冷や汗がこめかみを伝って落ちる。いつもの怒号が来る!と思って全身に力を入れたが、ひたすら待ってもそれは一向に来ない。
「気をつけろよ」
怒号の代わりに低い声が廊下に響く。そしてあたしの隣を過ぎていく不死川さん。
「え、それだけですか……?」
驚愕の渦に呑まれるあたしは思わずそう尋ねていた。ピシリと空気が凍る。
「…なんだお前、殴られたいのか」
呼び止めた事への怒りなのか、あたしの台詞が原因なのか、もはやどちらともムカついたのであろう。振り返った彼は眉間に皺を寄せている。
「いえ、深い理由はなくて…ただ、いつもの不死川さんならポッと手が出るというか、なんというか、あの…」
言葉を選び過ぎて余計に失礼になっている。しどろもどろになるあたしに、やっぱりしばいてやろうかなみたいな顔をしている不死川さん。そんな彼の手に、謎の包みが握られていることに気づいたあたし。
「……あれ、それって」
見たことのある包みの色だった。あれは多分、隣町にある茶屋のものだ。あたしはハッとして包みを指差した。
「そのお店知ってます!おはぎがすごく美味しい団子屋!」
いついっても混んでいて、中々席が取れない有名な茶屋なのだ。鬼も顔負けの風柱へ、ふと人間味を感じたそれがなんだか嬉しかったのか、あたしは続けて「風柱はおはぎがお好きなんですね!」と言った。途端にガツンと脳天へ落ちる硬い拳。
「いっ……たぁああい!」
頭が割れた、と思って手で確認したけど割れてなかった。涙目で風柱を見上げれば、やはり怒っている。
「次ぶつかってきたら殺すぞ!!」
思っていた通り、殴られた上にいつもの怒号が廊下に響く。体から煙が出そうなぐらい憤慨し、ドシドシと廊下を歩いていく不死川さん。
「……こわぁ」
屋敷の奥に消えてった風柱の背中を見送りながら、頭のてっぺんをさする。たんこぶが出来ていた。あたしは女の子の頭を躊躇なく殴れる風柱が、隣町の団子屋にいく姿を想像する。そして一人残された廊下で小さく呟いた。
「おはぎ好きなんだ……、かわいい」
そのあと、物凄い形相の不死川さんが舞い戻ってきたのはいうまでもない。
夜に紛れる #伊之助 善逸 炭治郎→←鬼の弱み #不死川実弥
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作者名:りん | 作成日時:2019年8月19日 13時