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「鬼が怖いか?」
そう聞かれる。意表を突かれたあたしは何も答えられない。返事に困ったあたしの頭をポンと撫でた彼。
「もし本当にさっきのが寝言だったとしても、あれは君の本音だと俺は思う」
「あたし、怖くないですよ」
「その通り、大丈夫だ。君は強い子だからね」
下心でドキドキとうるさいぐらい鳴っていた心音が静かになってくる。頭に置かれた彼の手は、緩やかに燃える炎のようにあったかくてあたしはそっと目を閉じた。そして小さく呟く。
「…煉獄さんが居るから来たんです」
「そうか、えらいぞ。よく頑張ったな!」
あたしの勇気を振り絞ったちょっとした告白はスルーされたが、煉獄さんに頭撫でられたし良しとする。
「よく眠りなさい」
そう言って立ち去ろうとした煉獄さん。でも行ってほしくなかった。それだけが頭の中を駆け巡ったあたしは何も考えずに、彼の服をキュッと握った。動きを止めた煉獄さんは、あたしを振り返る。
「どうした?」
「行かないで」
言った、なんか言ってしまった。思わず口からこぼれ出た。待って、心臓が今にも飛び出そう。
「あと少しだけ、ここにいて欲しい」
すぐにでも破裂しそうな心臓を抱えるあたしの声は震えた。下心なんて全くない。どんな反応をされるか分からない、どちらかというと恐怖の方が大きかった。返事を待つあたしを見下ろして、数回落ち着いた瞬きをした煉獄さんは小さく微笑む。
「よし、少しそこで待っていなさい」
そう言ってゆっくりと立ち上がった彼は、おもむろにあたしの隣に布団を敷き始めた。またもや心臓がばくばくと音を立てて、あたしを動揺させる。もはや空気のある地上にいる筈なのに、呼吸の仕方を忘れたのかってぐらいには酸欠だ。
寝具を敷き終えた彼は掛け布団の中に入ったあと、布団からあたしに手を差し出した。一瞬訳が分からなかったけど、彼は優しい瞳をしてあたしを待ってる。あたしは目を伏せたまま、自分の手を彼の方に伸ばす。そして大きな手があたしの手を包み込んだ。きゅんと腹の奥が熱くなる。
「昔は、こうしてよく弟の手を握って眠ったなぁ」
小さく呟いた煉獄さんの手から伝わる体温に、あたしの心臓は破裂まで数秒前だ。どうか、神様お願いしますと宙に願う。このまま時間が止まればいいのに。
「おやすみ」
何度目かの、彼からの挨拶。ハイと返したあたしだが、またしばらくは眠れそうにない。
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作者名:りん | 作成日時:2019年8月19日 13時