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「煉獄さん。このままだとあたし寝れません」
気になって眠れないと言いたかった訳だけど、そんなあたしの台詞に"えっ"みたいな顔をした煉獄さん。そして少しばかり考えたあと、何かを決心した顔をする。ペンをそっと置き、彼はゆらりとその場から立ち上がった。予想だにしない唐突な動きにギョッとするあたし。
宿に泊まっているというのに、いつも通り鬼殺隊の制服を着ている煉獄さん。彼はゆっくりとこちらに近付いてきて、布団に横たわったまま唖然としていたあたしの隣に座る。
「Aの頼みなら、仕方ないな」
何かを決心した顔をした彼。そう言って、布団も敷いていない畳に寝そべろうとした煉獄さんを、あたしは慌てて呼び止めた。
「まっ……、待ってください!」
自分の横に並んで寝転がる彼を制止すれば、今度は彼は不思議そうにあたしを見る。
「安心しろ。もう俺は心の準備が出来ているぞ」
「…なん、なんの、なにをですか…!」
「寂しいから一緒に寝てほしいと、そう言っただろう」
「!!」
ええええええええええ!!なんですかそれ!
言ってません!そんなこと言ってません!!
頭の中に住む小さなあたしが大きな声でそう叫んでる。でも声が出ない。いや、出ないというよりは出さないに近いか。
ここに来てあたしの本能が「煉獄さんと寝たい」と、言うなれば遺伝子がそんな風に暴れ出した。遺伝子という名の、あたしの中に居る悪魔がにっこりと笑う。
『"何を躊躇ってるの?己の答えはただ一つ。ここで煉獄さんと寝ちゃえ!"』
嗚呼!卑しい悪魔の囁きが!耳に!
あたしはその声に抗う。
『"男と女が一夜を過ごして何もないなんて馬鹿みたい!さっさとやることやって、既成事実を作っちゃうのよ!"』
ちょっと!なんてことを言うの!
『"彼のことが好きなんでしょう?なら何も迷うことはない!ただ真っ直ぐ目の前のレールに沿って進むだけ!さぁ!行くのよ!"』
進む先はただ一つ?……そうなのか?あたしと煉獄さんの間なら、クリクリした瞳の可愛い子が生まれ………いや、あほか!!
あたしは脳内の悪魔を日輪刀で葬った。悪魔の声に導かれ危うく大きな間違いを起こすところだったけど、ちゃんと理性が勝った。一人で架空悪魔と戦っていたあたしは我に返る。
「なんでもないんです。寝ぼけてました。作業を続けて下さい」
慌てて彼に笑った。だけど煉獄さんは不安そうな顔をしてみせる。その表情は切ない。それは自分がいかにやましいかを見せつけられるような慈愛の顔だ。
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作者名:りん | 作成日時:2019年8月19日 13時