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目をきつく閉じたあたしは、頭の中でただ伊之助の数を数えた。広い草原で、羊のように低い柵をぴょんと飛び越える伊之助。猪突猛進。時たま飛び越えず、柵を壊して突っ切っていく。我ながら伊之助っぽい。これを炭治郎と禰豆子でもやってみようと、また一から数え始めた。彼らは二人揃ってきちんと飛び越える。こうなると他の人でも試したくなる。富岡さんは真面目に飛び越えて、不死川さんは壊していく。時透くんはきっとここにすら来ない。
そんなことを考えていたらウトウトしてきた、今すぐにでも寝そう。だが鬼は神出鬼没だ。突然現れたときに直ぐ出られるよう、深く眠るわけにはいかない。でも眠たい。
「あれ?……いや、…………違うな」
煉獄さんが何やら独り言を呟いている声が耳に入る。考え事をしているのか、ペンの音と同時に話し声が聞こえる。あたしは薄く目を開けて、彼の様子を確かめた。
「きっとこうだな……」
「………煉獄さん」
「…ん?」
あたしの声に、ふっとこちらを見た彼。
「ああ、すまない」
うるさかったかなと謝った彼だが、あたしは首を小さく左右に振って尋ねる。
「何してるんですか……」
「ここ周辺の地形を調べていたんだ。辺りは山林だから、鬼も住みつきやすいのだろう」
「ち、けい……」
また目蓋が重くなってきた。寝そう。
「煉獄さん…………れん、ごく」
睡魔に襲われるあたしの口が、自分の意思に従わず勝手に動く。耳に入る曖昧な自分の声、ぼやける頭で言った。その瞬間、驚いたように目を丸くしている煉獄さんの顔が視界に入る。
「あれ………」
不意に異変を感じたあたしは重い目を開けた。半分寝ぼけ頭で何かを言った気がしたけど覚えてない。薄目のあたしは彼に尋ねる。
「あたし今なんか言いましたか…?」
「…いいや。なにも、言ってないぞ」
否定しながら、不自然に右と左へ素早く揺れた彼の目線。どこかおかしい。どう見ても動揺してる。
「大丈夫だ。君はしっかりと眠っていた…」
そうは言いつつも彼は確実に嘘言ってる顔をしてて、こっちを見ないその横顔が曇っている。煉獄さんがこんな表情するって、何を言ったんだろうあたし。まさか炭治郎か誰かと間違えたとか、このタイミングでご飯の話をしたとか、寝ぼけついでに相当トチ狂った事を言ったに違いない。
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作者名:りん | 作成日時:2019年8月19日 13時