飛んで火にいる夏の虫 #煉獄杏寿郎 ページ40
「だから、それだと困ります!」
あたしの声が宿のロビーに響き、過ぎ行く人達が不思議そうにこちらを見てる。だが構わない。
「元々二つ部屋をお願いしていたんです!なのに一つしか取れてないって、おかしな話ですよね」
「今はお部屋の空きが一つしか無くて…」
何度あたしが訴えても、この従業員はさっきからそれしか言わない。あたしの苛々は、もはや頂点に達しそうだった。
そもそもこんな話になったのは、何やらこの村で深夜に鬼が出るという噂を聞いたからだ。だからあたしと煉獄さんが人里離れた何も無いところへ任務の為に訪れた。今晩にもまた人が喰われると急かされて、慌てて来た。なのにこれだ。
「俺は野宿でも構わないぞ」
さっきからそう言って宿を出ようとする煉獄さんを引き留めながら、どうにかならないかと交渉するが、従業員は申し訳無さそうに首を横に振るばかり。
「これだけ謝っていることだし、もういいんじゃないか?」
「ですが、煉獄さんと同じ部屋は…」
柱と同室で寝るなんてきっと失礼にあたる。それに、あたしと煉獄さんは異性なのだ。煉獄さんは気にしなくても、あたしは気にする。だが彼は知ってか知らずか、渋るあたしを陽気な笑顔で見下ろすだけ。
「俺は何でも構わない!それよりもこうしてる間に鬼が来てしまわないかと不安だな」
「いや、……でも」
「安心して下さい!部屋は足りませんが、寝具はきちんとご用意できますよ!」
そう言ってニッコリと微笑んだ従業員。こいつほんとに殴ってやろうかと眉間にシワを寄せたあたしの肩を、グッと掴んだのは煉獄さん。
「布団があるのなら安心だな!さぁ行こう!」
「れ、煉獄さん…」
この人は本当に気にならないのかと、あたしの肩を強く掴む彼を疑問に思いつつも、流れに飲まれるように一つしかない部屋へ。案内された部屋に入るなり、彼は大きな声をあげた。
「なんだ、思っていたより広いじゃないか!なぁ、A!」
「…そうですね」
「部屋は区切られていないが、端と端に寝具を並べればいいだろう」
部屋の隅を指差した煉獄さんだが、そういう問題ではない。同じ部屋で眠るあたし達を想像しただけで脳みそと心臓が爆破しそうになる。
「こう考えて見るんだ、A。俺と同じ部屋なら、もし鬼が出た時に行動を共にしやすい!」
「まぁ…そうですね」
とりあえず食べて風呂だと…なんて切り替えの早いこと。荷物を置いた彼は「行こう!」と朗らかな様子で部屋を出ていく。取り残されたあたしも慌てて彼の背中を追った。
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作者名:りん | 作成日時:2019年8月19日 13時