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「内緒にしてて…!あんなのバレたら、もう鬼殺隊に残れないよ!」
もはやヒソヒソ声を超えた大声と共に、お願いするべく両手を合わせて彼の前に突き出した。少しばかり渋る無一郎君だが、負けじと頼み込むあたし。
「お願いします!」
「……………」
重い頭をゆっくりと上げれば、彼はあたしからぱっと視線をそらす。
「そこまで言うなら…」
「ありがとう!」
無一郎君の手を掴んで目一杯感謝の気持ちを伝えれば、気難しい顔をした彼はあたしの手をそっと退けた。
「その代わりなんだけど」
視線を下にやった彼に、あたしは瞬きをする。
「ん?」
「内緒にしとく代わりにお願い聞いて欲しい」
「いいよ、聞く聞く。なに?」
どうせ修行手伝ってとか、その程度の頼み事でしょうとあたしは軽々と頷いた。
「あたしにできることなら何でも、」
「キスさせてよ」
「………………は?」
「ダメ?」
首をかしげて尋ねてきた彼。駄目とか駄目じゃないとか、そういうのじゃなくてシンプルにそれはおかしいと思う。冷静を呼び起こしつつ、あたしは「それ以外にして」と両手でバッテンを作って彼の前に出す。
「なら煉獄さんに言う」
「えっ………!」
唇を尖らせてポツリと呟いた彼にあたしの身体は硬直する。まさかそう来るとは思わなかった。だからといって、ああそうですかそれなら言えば良いでしょ!なんて、自分のした事があまりに変態過ぎるので啖呵切ったりも出来ない。
「……………言ったらダメ」
「言われたくなかったらキス」
真剣な顔をした無一郎君に、じりじりと壁際に詰め寄られ生唾を飲んだ。逃げ場を無くし、ひんやりとした壁に手をついたあたしは近づいて来る彼から顔を逸らす。
「無一郎君……変なもの食べた?…吐く?トイレ行く?」
「なんで」
「なんか、お……おかし…くない?」
「俺がおかしい?」
恐る恐る彼の名前を呼べば、彼があたしの頭の横に手を置いた。狂うんじゃないかってぐらい鳴る心臓の音に混じり、彼の低い声が脳に響く。
「"好きな子とキスしたい"の何がおかしいの?」
頭を駆け巡る彼の言葉に耳を疑った。もう一度聞き返そうと視線を上げた時、強引に唇を押し付けられる。きゅうと呼吸が止まり、柔らかい感触に指の先がジワジワと痺れた。
きつく瞑った瞼の奥で、脱衣所の扉が開く音が微かに聞こえる。煉獄さんが出てきた。そう思ったけど、あたしの脳はもう使い物になりそうにない。
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作者名:りん | 作成日時:2019年8月19日 13時