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唐突な彼の言葉に、は?と思ったあたしだが、この汚点をあたしの歴史から無かったことにするのは今しか無いと咄嗟に判断して「そうなの!」と彼の羽織りを自分に当てて笑った。
「よくわかったね!そう!あたしもこんなの欲しかったの!可愛いし、お洒落だし、何にでも合わせれそうだし!」
どこかだよ、と心の中でツッコミを入れる。酷くテンパっているのが自分でもよく分かった。
「なんかカッコいいでしょ!なんて言うの?このシルエット、シャツのデザインとか、あの…あ、あと!こうやって頭まで被ってかくれんぼ!なんちゃってぇ!」
なんのこっちゃ。もう何を言っているのかわからないけど、彼は至って冷静、真顔であたしの話を聞いている。
「隊服作ってる前田さんが喜ぶんじゃない」
「ああ……そうだね!」
「そんなに気に入ったんなら頼んでみたら?作ってくれると思う」
考える仕草をした彼にあたしの心が微妙に痛む。無一郎君じゃなくて、富岡さん辺りに見られていた方がまだマシだったかもしれない。多分あの人ならスルーしてくれる。でないとあまりにも居たたまれない。にっちもさっちもいかない状況で、じわじわと羽織りの中に消えかけるあたし。
少しばかり考える素振りをした彼は、突然閃いたように目を細めた。
「そっか。A、煉獄さんの事が好きなんだ」
途端に心臓がビヨヨーンと跳ねた。
見事に図星を突かれ、大正解!と言う訳にもいかず「そそそそそ、そんなわけ、ソンナ…」なんて呂律も回らなくなる。彼が違うのと首をかしげた時、浴場からこちらに近づいて来る音が聞こえた。
「あ…!」
やばい、煉獄さんがあがって来る。足音に反応した無一郎君は、ふと思い出したように浴場を見た。
「面白そうだから言っちゃおうかな」
にこりと笑った彼の言葉に、あたしの目がこれでもかってぐらい丸くなる。いつからそんなに悪い子になったの?そんな子に育てた覚えはありません!あたしが聞いても彼は笑顔で「楽しいから」とだけ言ってくる。険しい顔をしたあたしは彼の手をとって、隊服を放り出し浴場を飛び出た。
「そんなに引っ張ったら痛いよ」
無一郎君を連れて、廊下の途中で立ち止まったあたしは彼を振り返った。
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作者名:りん | 作成日時:2019年8月19日 13時