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「"トリックオアトリート"」
「?」
「お菓子くれなきゃ悪戯しちゃうぞ」
「菓子?」
何故そんなものをと怪訝な顔をした猗窩座だが、構うまい。
「はやくお菓子ちょうだい」
「そんなもの持っているか」
「なら悪戯しちゃおうかな」
「さっきから何を言ってるんだ」
あたしの言っていることが相当奇妙で訳が分からなくても、頑なに表情を変えない猗窩座。強情な態度をされると本当に悪戯したくなる。
「くれないなら悪さします」
そう言って猗窩座に詰め寄れば、さっと距離を取った彼。
「はやく着替えてこいと言っているだろ」
「いやだ」
「…おい、その格好で寄るな」
「悪戯するんだから」
近寄らなきゃできないでしょうと間合いを詰めた瞬間「やめろ」と肩を押された。途端にあたしは彼の手が触れた肩を押さえて猗窩座を指差す。
「あ!セクハラかつパワハラだ!」
「鬱陶しいぞ……もうお前早く出ろ」
「だってさぁ、ほんとは無惨様に可愛いって言われたくて作ったんだよ」
「無惨様はお忙しい。お前のそんなお遊びに付き合うほど暇ではないぞ」
「…はいはい」
分かってますよー、と猗窩座に背を向けて無惨様の部屋を出る。
「せっかく作ったのにぃーー」
鬼達に見せようと思ったあたしが間違いだった。なんとなく盛り上がりに欠ける終わり方だと渋々着替えに向かえば、不意に猗窩座に呼び止められた。
「A」
彼を振り返ると、何やら渋い表情をして俯いている。
「その服、先程ああは言ったが」
短い沈黙、猗窩座の長い睫毛がちらりと揺れた。あたしは彼の言葉を待つ。
「お前に似合っていないという事もない」
「えっ」
「だから悪くないと言ってるんだ」
「…な、何急に」
「それだけだ。早く行け」
鋭い目線で急かされた。言い逃げだ。
どういう意味かと聞こうと思ったけど身体が一気に熱くなっていく感じがしたから、あたしは彼の顔も見ずに逃げるようにその場を後にした。そして城の中を走る。熱を帯びた体温冷やすように。こんな筈じゃなかったのに、と心の中で叫ぶ。しばらく彼の顔は見れそうにない。
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作者名:りん | 作成日時:2019年8月19日 13時