息もできない (ページ4)

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# 淡い恋心ページ4

授業終了のチャイムが校内に響く。体育館から教室へ向かうクラスメイト達に混ざり、廊下を歩くあたしは大きく背伸びをした。体育で激しい運動をしたあとは身体に乳酸が溜まって何と無く気怠い。しかも5-4で負けたから気分もそこそこ悪い。

「なぁ、見てた？」

追い越しざまにあたしの顔を覗き込んで、そう尋ねて来たのは将暉。唐突な質問に何がと尋ねると、彼は不満そうに「俺のスーパーロングシュート」と言った。幼稚なネーミングセンスをスルーしつつも頭を左右に振る。

「普通に見てなかった」

「なんでやねん。見とけや」

「だって女子も試合してたし」

「どうせまた"竹内君見てた"やろ」

お決まりのようにそう言った将暉に「やめてよ」と辺りを見渡しながら小声で彼を咎めた。

「おらんって」

「聞かれたらどうすんの」

「多分まだ体育館でバスケしてる」

「だからってデカい声で言わないで」

唇の前に手を当てて、シーと子供に言うみたいにやれば彼は腑に落ちない様子であたしを見た。

「あいつ彼女おるで」

「知ってるから」

「彼女おる奴なんか好きになってもしゃーないやん」

「だからさぁ……」

"いうな"と今一度口止めしようとした時「ほんと仲良いね」とすれ違いざまにそう声を掛けられる。あたしは咄嗟に後ろを振り返った。

「二人って付き合ってるの？」

みんなより少しばかり背の高い竹内君の爽やかな笑顔があたしを見下ろす。体育館じゃなくて全然後ろにいてるし。そうイラっとしつつも、全力で頭を横に振って否定した。

「まったく。ただの友達だよ」

そんなあたしの反応に「可愛くない」と将暉は露骨に顔をしかめてる。それを無視してあたしは竹内君に話しかけた。

「バスケの試合勝ってたね」

「あ、見てくれてたんだ」

「うん。ほんとかっこいかった」

体育館での竹内君の動きを思い出して、満面の笑みで彼を見上げる。すると彼はあたしに負けないぐらい笑顔でありがとうと言った後、悪戯っ子みたいに口角を上げた。

「俺ね、かっこいいって言われるとめっちゃ頑張れちゃうんだよね」

自分の前で拳をギュッと握る仕草をしてみせた竹内君に、あたしの心臓も握り潰される。キューーンと体内から高めの効果音が出て、彼が笑うたびにふわふわとした気持ちになった。
嗚呼、何か素敵な間違いが起きて、竹内君が自分のことを好きになったりしないかな。
あたしはいつもそんなことを夢見ながら彼に淡い恋心を抱いてる。