瑠璃色 ページ6
落ちていく瞬間は緩やかに、その音色は盛大に。
漫画の一コマのように描写される硝子は瞬きをすると視界から消えていた。
手元にあったはずなのに。
廊下を突き抜けるような破壊音は、外まで漏れるはずもないのに私の心を焦らせた。額の発汗が止まらず寒気がした。無意味に手を閉じて開いて。
『し、しのぶさんに見つかる前に…』
「私がどうかしましたか？」
ひっ。
声にならない声とはまさにこのこと。背後から耳元で彼女の美しい声がするが、内に何かを潜めている。尋問もされていないのに問い詰められている気になってしまう。
「あら、これは…？ 何か割れているように見えますけど」
『え、えっと、花瓶です！ 落としちゃって』
「それにしては大きいですねぇ。お花も見当たりませんし。…ねぇAさん？ 嘘はいけませんよ」
綺麗な顔を近づけられて同性ながら見とれてしまう。苦し紛れの嘘も秒で看破されもう本当の事を言うしかない状態。…いや、悪いことをしている訳でもない。なぜこれだけ誤魔化したいのかというと単に恥ずかしいだけだった。年が1つ違うだけなのに”柱”で責任感もある彼女に、あの言葉を言われるのが嫌だ。
『……。…』
「Aさん？」
『…金魚鉢です。その、しのぶさんが飼育している金魚のための』
「まあ、あの子たちの。教えてくれれば手伝いましたよ」
『私の独断だから気づかれたくなかったんです。はぁ、私ってなんでこう運が悪いの』
「そんなことないですよ。それと、どうして金魚鉢を？ あ、Aさんのお気持ちは嬉しいですよ」
しのぶさんは質問をしながら私が気負わないように補足もしてくれる。話し上手なこと。
『水槽もいいですけど、その、しのぶさんにはこっちの方が似合うかなって。綺麗で幻想的で。これを見つけた時、しのぶさんにあげたら喜ぶかなって思ったんです。もう割れちゃったけど…』
だんだんと尻すぼみになりながらも伝えた言葉。一目惚れに近かった。しのぶさんを初めて見た時と同じ儚さを感じて…。
「あらあら、うふふ。そんな事を言って貰えるなんて。ふふ、本当にAさんは」
『あ、っ』
耳元にしのぶさんの顔が近づけられた。相変わらず慣れないこの距離感は彼女が得意とする間合いだった。
私は彼女が今から発する言葉に弱い。そして、多分勝つことはできないだろう。
「かわいらしいことです…♡」
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作者名：ココさん | 作成日時：2019年11月19日 0時
