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第三十三話 ページ35

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「Aっ!待って!」


弓道場から飛び出した彼女の華奢な腕を捕まえて
此方を向かせれば目元は朱く腫れていた。



雨粒が地面に受け止められるのとは反対に、
彼女が流す雨粒は重力に逆らえず目元から
湾曲に沿って頰を伝い静かに落ちていく。



物心ついた子が泣いているのを見られるのが
恥ずかしくて下を向くように彼女もそうした。



いつまでたっても止むことを知らないその水滴を
拭うように目を擦り続けるから、
僕はその冷え切った小さな手をそっと包み込んだ。








「目、これ以上擦り続けたら
もっと腫れてしまうよ」





案の定彼女の瞼はますます朱く
染まっていてとても痛々しい。



柔らかな声色で幼い子どもを慰めるように、
そっと囁けばまた次から次へと涙が溢れ出て来た。



彼女の手を包み込んだのとは反対の指で流れる
涙を掬えばその反動で瞼が閉じられた。



長いまつげが水滴でぬれて、彼女の気持ちとは裏腹に外の光で反射して輝いて見えた。



彼女の目線と自分の目線を
合わせるように背を傾ける。
十センチ余り以上の身長差はすぐになくなった。






「Aが落ち着くまで、此処にいるよ。
だから安心し」





視界にすっと入ってきた華奢な両腕は
僕の背中に回された。




「ごめん……少しこのままでいさせて……」




耳元で小さな声が僕の鼓膜を震わせた。






「うん」






その言葉と一緒に、彼女が安心できるように
震える背中にそっと腕を回した。







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設定タグ:ツルネ , 竹早静弥 , 弓道   
作品ジャンル:アニメ
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千花(プロフ) - ぴぴるぴーさん» 素敵なコメントありがとうございます!新年早々既に風邪を引いてしまいましたが、頑張りたいと思います。愁くんのお話もそのうち更新していけたらと思っております。どうぞ今後とも宜しくお願い致します! (2019年1月1日 8時) (レス) id: a0bb3f43ee (このIDを非表示/違反報告)
ぴぴるぴー(プロフ) - 本当に素敵なお話で!もう、きゅんきゅんしながら読ませていただいています!愁君のお話もです!お体に気をつけて、更新頑張ってください。楽しみに待ってます! (2019年1月1日 6時) (レス) id: cd72a96e39 (このIDを非表示/違反報告)
千花(プロフ) - Tao音さん» こんばんは。温かいコメントありがとうございます。そう言っていただけて本当に嬉しいです!頑張って更新を続けてたいと思いますので、宜しくお願い致します。 (2018年12月25日 23時) (レス) id: a0bb3f43ee (このIDを非表示/違反報告)
千花(プロフ) - 終夜さん» こんにちは。いつもありがとうございます。私自身このようなことは初めてでとても吃驚しましたし残念に思いました。私よりも文才がきっとある方だと思いますので、ご自身の作品を大切にしてほしいと思いますね…… (2018年12月20日 12時) (レス) id: a0bb3f43ee (このIDを非表示/違反報告)
終夜(プロフ) - え、盗作?とうさく?トウサク?とても悪い行為ですが、それほど、千花さんの語彙力が羨ましかったのでしょうね。とてもお辛いと思いますが、お気を休めて下さい! (2018年12月19日 22時) (レス) id: 7fadf68605 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:千花 | 作成日時:2018年11月17日 22時

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