目覚め ページ24
瞼が大きく開き、日光のおかげか元の部屋の風景が鮮明に網膜へ伝わった。
首元が汗でひんやりとする中、杏さんは温かなお粥を持って部屋に入ってくる
「食べれる？」
夢の後味の悪さに潰されながらも、生返事を返してお粥を受け取った。
ご丁寧に一人前の鍋で煮込まれ、苦手な梅干の代わりに鮭がごっそり入っている。入りすぎだ。
文句は言うまい、と思いつつ口に運ぶと
「マサキさ、Aがここからいなくなったらどうする？」
なんて。なんてことを言い出すんだ。
唐突極まりないその言葉に、俺はお粥を戻しそうになる。とりあえず飲み込む。
熱があるせいか驚愕に飲み込まれたせいか、ちっとも味がしない。
「あたしすっごく不安なんだ...昨日玲名とAが話してるの盗み聞きしちゃってさ。」
今のは二人に内緒ね、と付け足しながら口元に人差し指を立てた。
他人から見れば可愛らしい仕草だろうが、どこかその表情は悲しみが滲んでいる。
「玲名やヒロトは強がってるだけでさ、きっといなくなって欲しくないって強く思ってる
でもその反面、Aの幸せを強く願ってるんだ。素直じゃないよね...」
一度杏さんの視線が天井を仰いだ。それと同時に、苦笑した。
完全に止まっていた手を無理矢理動かし、お粥をもう一度口に運ぶ。
舌に突き刺さる熱はあるものの、やっぱり味はない。
「でもあたしは二人みたいに大人になれないよ。だってAとは皆ずっといたんだもの。
いくらAが幸せになるからって、そこでサヨナラなんて嫌じゃない...」
大人にはなれない、なんて言ってるくせにその表情は誰よりも大人びていて静か。
杏さんはきっと自覚しているんだろう。自分がどうしたいかをちゃんと考えている。
でも俺の頭はそんなに聡明じゃない。だから。
「その二人みたいな思考を持てたら、俺も諦めつくんですかね。」
と、冗談交じりに言った。諦めるなんて退路はありながらも考えてなかった。
すると杏さんは
「多分無理だよ、マサキは。」
「...何でですかね」
「あたし達と違って、[好き]なんだもん」
一気にやるせなくなった。
根本から違うことにすら気づけないなんて、と俺は自身を叱咤しながらため息をつく。
Aさんが好きになったのは何時からだったんだろう。
あの夢はいつの頃の夢だったんだろう。
何でもかんでも体のせいにはしたくないが、いまいち思い出せないままだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 17人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夜月桜 - な、泣ける。・゜・(ノД`)・゜・。 小説でこんなに感動したことないです(>_<) (2017年3月29日 20時) (
レス) id: 889de71093 (このIDを非表示/違反報告)
佐奈(プロフ) - Mmさん» こちらこそよろしくお願いします！よろしかったら他作品もよろしくお願い致します。 (2015年1月3日 20時) (レス) id: 2725121de3 (このIDを非表示/違反報告)
Mm - よろしくお願いします! 更新頑張ってください!! (2015年1月3日 16時) (レス) id: 5a5650f5d4 (このIDを非表示/違反報告)
佐奈(プロフ) - Mmさん» コメントありがとうございます！もうすぐラストなので、この雰囲気を保ちつつ納得がいくエンドをかけるよう頑張りたいです。更新も張り切りますので今後もよろしくお願い致します。 (2015年1月2日 15時) (レス) id: 2725121de3 (このIDを非表示/違反報告)
Mm - すごく良かったです!読んでるとき涙がでてきてもう大変でした笑 更新待ってます＾＾ (2015年1月2日 15時) (レス) id: 5a5650f5d4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：佐奈 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/e2e95d529a1/
作成日時：2014年9月20日 20時
