柳田と柳田、そして石川。31 ページ32
▼
「柳田、レフトが少し狙い目かもしれん。頭に入れておけ」
「はい」
「あとサーブが次回ってくるから攻めていけよ」
「っす」
「よし。お前ら最後まで気抜くなよ！5点だ、と思ったら駄目だぞ！！」
タイムアウトのブザーが鳴り、各々の最終確認を給水しながら行う。監督の言う通り、ここであと5点、なんて考えたら気が抜けてしまいそうで、1点1点、まだ試合は始まったばかりかもしれない、と無理矢理にでも暗示をかけた。
「……？祐希、どした」
ふと、ベンチに座らされていたであろう足を怪我した祐希が立ち上がっているのが視界に入る。ボーッと客席を見ているようで、でも心做しか、嬉しそうな表情でもあって。
「…や、………Aさんが、いるんすよ」
「……は？何言ってんの祐希」
「なんやなんやー、どうした２人。喧嘩か？」
「いや、違いますよ清水さん、」
Aがいる、って、そんな訳。そう思って祐希と同じ方向を向いて、同じ場所を見る。上の方の、一番一番奥の方。立ち見の場所なのか、少しだけ人だかりができていた。
……いる。
人だかりがだんだんとなくなるにつれて、そこの中心にいた人物が、はっきりではないが、見えた。
「……ほんとにいる」
「やっぱり。ね？マサさん、来てくれたんだよ」
いつ来たのかなあ、Aさん。
そう言う祐希は、今度こそ本当に嬉しそうな顔をしていた。いつもの敬語が無くなっているのを見ると、少し興奮しているようで。怪我なんてしていないかのように、背伸びをしたり、ちょっと動いてみたりしていた。
……ほんとに、本気で祐希は好きなんだな、Aのこと。
ブーッ
《タイムアウト、終了です》
「……、」
そんな祐希から視線を離し、彼女がいるであろう方向へ顔を向ける。彼女ももうこっちに顔を向けていて、遠すぎるから目が合ってるかまでは分からないが、きっと祐希や俺に存在を気付かれたことくらいは分かっただろう。
少しだけ、ほんの少しだけ、モヤモヤする。
祐希より、誰よりも先に見つけたかった、なんて、思ってしまう自分もまた。
Aのことを本気で好きなのだと、改めて思わされた。
▼
柳田と柳田、そして石川。32 リオ予選編終了→←柳田と柳田、そして石川。30
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 516人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みずき(プロフ) - 久しぶりに伺いました。ダラダラとは感じてないし楽しくて読ませていただいてます！！これからも更新楽しみに待ってます！ (2017年1月10日 8時) (
レス) id: ef18299a82 (このIDを非表示/違反報告)
美紗(プロフ) - 今一気読みして読み終わりました！まえださんのお話とても面白いです！これからも頑張ってください(^-^) (2016年12月12日 18時) (レス) id: be30bc9546 (このIDを非表示/違反報告)
サラ - キャラクターは書いている内に勝手に動き出す！って言いますよね！ 本当にまえださんの書く祐希くんは可愛くて男らしくて大好きです！ まえださんの心のままにどうぞお体にお気を付けてゆっくり更新して下さいませ。ステキなお話ありがとうございます！ (2016年12月12日 7時) (レス) id: 58f1eda3d9 (このIDを非表示/違反報告)
まえだ。(プロフ) - サラさん» 自分の石川祐希像が現れてしまっている……（笑）ここからどう恋模様に繋げようか、子犬が狼になる瞬間をどう描こうか模索中です(￣▽￣) (2016年12月9日 4時) (レス) id: 0f6ce9faf2 (このIDを非表示/違反報告)
サラ - まえださんの書く祐希くんはとても可愛くて素直で良い子でキュンキュンします！ (2016年12月8日 6時) (レス) id: 58f1eda3d9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：まえだ。 x他1人 | 作成日時：2016年6月16日 15時
