1『そんなおとぎ話と、夜』 ページ1
もう何時間、この本を読みふけっていたことだろう。
先日ルーク先輩に貸してもらった一冊をようやく読み終えた私は、机上にそれを置いた。
改修工事を終えたオンボロ寮に住んでいるのは私と魔獣1匹、それから何人かのゴースト。
寂しさや憂いが拭いきれぬ夜の片隅で、私はそんな部屋の一点をぼーっと見つめる。
『監督生くん。キミにおすすめの一冊があるんだ』
ルーク先輩に貸してもらった本は、私が古典文学の勉強に行き詰まっていた時に貸してくれた本だった。
比較的読みやすい文体で書かれているから、キミもきっと手に取りやすいだろう、と。
ルーク先輩の優しい気遣いを受け入れ、さっそく開いてはみたものの。
それはそれは、美しい物語で。
私が現実では一生体験することのできない、幸せな夢で。
「……はあ」
おかげで次の古典のテストは満点だろう。あれだけ呪文にしか見えていなかった古語たちが、体に芯から染み付いたようにすんなりと理解できる。
その点においては、この本をすすめてくれたルーク先輩に感謝しなくちゃならない。
「なー子分、いつまで明かりつけてんだ。オレ様はそろそろ寝たいんだゾ」
「あ……ごめん。グリム」
私と同じくそれまで古典の勉強に励んでいたグリムは、ふああと大あくびをしてあっという間に毛布の中に潜り込んだ。
部屋の明かりを消して、私はモフモフな彼のそばに寄り添う。
「……」
「どうしたボーッとして。子分、様子がヘンなんだゾ」
口数の少ない私を、彼なりに心配してくれているのだろう。私の腕の中で、寝ぼけ
私は口元に笑みを作って答えた。
「なんでもないよ。次の古典のテスト、頑張ろ」
「おーう！ もしオレ様がちゃんと合格点とったら、ツナ缶増量な？」
「はいはい」
グリムの耳に灯る炎の暖かさに、眠気を誘われる。
目を閉じていると、例の本の一節が私の頭をよぎった。
――『真実の愛があれば、どんな困難も乗り越えられる』。
「なにが……」
真実の愛よ。
子供だましな幻想に腹を立てた、とある夜のことであった。
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作者名：りんこ x他1人 | 作成日時：2023年12月12日 20時
