オクタヴィネル寮生活 〜3〜 ページ3
いい匂いタイムが終わると、Aがベッドから降りた。
「カフェオレで良いですか？」
「うん。オレ作るよ」
「……ありがとう…。でも、…今日は私が作りますね…」
「……そっか…」
「朝食は寮の食堂？」
「うん」
「分かりました」
短い会話。
以前のミトンが燃えてしまった事があってから、Aはフロイドに火を使わせる事に敏感になってしまっていた。
そこについてはフロイドも何となく遠慮していた。
フロイドはゆっくりと部屋の家具を触りながら赤い糸を辿ってAの元へ歩いて行く。
「A…」
上手く後ろから抱きしめることが出来た。
「少し…コンロから離れますね。3歩後ろに下がってくれますか？」
「うん…」
これなら今ここでフロイドが突然倒れても何も燃え移る物はない。
「久しぶりだね、こーゆーの…」
「はい…。嬉しいですね」
「クリスのお陰？」
「そうですよね？」
「まぁね…」
「祝福って…、どんな風に訪れてくれるんだろう…」
「結婚とか？」
「うふふ…。そうだったら、最高に幸せ…」
「うん…。ごめんね…、目が見えなくなっちゃって…」
「フロイド先輩のせいじゃないでしょ？それに、私がフロイド先輩の目になりますから。大丈夫ですよ」
「それじゃ…オレがAを守れねぇじゃん…」
「クリスやジェイド先輩がいるじゃないですか。みんなに頼るの、大事な事でしょ？」
「………」
「お湯、沸きましたね。テーブルの場所、分かりますか？」
「うん」
「座って待っててくださいね」
最近、フロイドは自分が視覚障害者であると言う事をつくづく感じさせられてしまう。
みんなの協力を受け入れ、みんなを頼れば頼る程。
しかし、自分一人では、出来ない事がたくさんあるのが現実だ。
フロイドの心にモヤモヤするものが生まれ始めていた。
それから数日が過ぎた。
「ジェイドー」
夜、２人で寮の部屋にいる時、フロイドがふとジェイドに声を掛けた。
「何でしょう？」
「そろそろさぁ、オレもモストロ・ラウンジの仕事やるよ」
「……その見えない目で、何が出来るのです？」
「サービスは出来なくてもぉ、キッチンならいけるでしょ？」
「少しは料理が出来るようになったと言っても、いつも誰かが見守っていないと危ないですし、店では時間との勝負ですよ。フロイドが作り終わるまでに、どれくらい時間が掛かるか分かってますか？」
ジェイドは机で店の書類を見ながら答えた。
「戻してくれねぇの？」
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作者名：魅樹 | 作成日時：2023年6月6日 21時
